研究課題/領域番号 |
23KJ1092
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山田 啓士 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | コバルト触媒 / 光レドックス触媒 / 環化異性化反応 / σ結合活性化 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、本研究室で既に発見していた可視光駆動型コバルト触媒による不活性C(sp3)-H結合の活性化を伴う新規環化反応の開発を中心に行った。この反応は、従来の反応では達成されていなかった活性金属中心から遠隔位のC(sp3)-H結合の切断を伴う新規の反応であり、その反応メカニズムは不明であった。そこで、実験化学と計算化学の両輪のアプローチによる詳細な検討を行った。 その結果、本反応は光触媒の酸化・還元によるコバルト触媒の価数の変化だけでなく、コバルトのスピン状態の変化も伴う複雑な反応機構で進行していることが判明した。また本反応は、従来法である金属還元剤とコバルト触媒を組み合わせる触媒システムは有効ではなく、可視光駆動型コバルト触媒が有効であることも明らかにした。さらに、本反応で得られる化合物が軸性キラリティーを持つ分子であることから、不斉反応への展開を試行した。検討の結果、市販されている二座キラル配位子は本反応に有効ではなく、単座キラルホスフィン配位子を利用することで中程度のエナンチオ選択性で目的の化合物を合成することができた。 一方、上記の研究から得られた知見を基に、上記の研究とは異なる位置にあるC(sp3)-H結合の活性化を伴う環化反応を新たに見出した。この反応は不斉非対称化反応へと展開することが可能であり、単座キラルホスフィン配位子を利用することで、高収率かつ高エナンチオ選択的に環状化合物を合成することを達成した。併せて、計算化学による不斉発現機構の解明も達成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初想定していた遠隔位C(sp3)-H結合活性化を伴う環化反応の開発および反応機構の解明に加え、その研究で得られた知見から、新たな新規反応の開発に成功した。また、新たに見出した反応を不斉反応へと展開し、高エナンチオ選択的に環状化合物を合成することも達成しており、併せて、計算化学を利用した不斉発現機構の解明も達成している。
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今後の研究の推進方策 |
新たに見出した見出した遠隔位C(sp3)-H結合活性化を伴う不斉非対称化反応における基質適用範囲の調査を行う。また、得られた環状キラル化合物は種々の化学変換にて有用な環状化合物へとジアステレオ選択的に変換できるため、誘導化について検討を行う。また、不斉非対称化反応だけでなく、速度論的光学分割も本反応で実施し、本反応に適用できる基質の拡張を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究計画では、未知の反応機構を解明するため、実験化学に加え、計算化学の手法を用いた研究を実施する予定でした。しかし、煩雑な計算に伴う膨大な計算コストが予想されたため、計算化学の効率化を支援する計算ソフト「Reaction plus 2」の導入を検討した。導入には80万円程度の費用が必要でしたが、支給された研究費では他の研究に必要な経費が不足すると考え、ソフトの購入を断念した。計算ソフトを用いた研究は断念したが、計算化学センターの計算機を利用して計算を実施した結果、本年度の研究費は当初の予定よりも余剰となった。 翌年度の研究では、前年度に開発した反応を不斉反応へと展開することを目標としている。この研究では、高価な不斉配位子(100mgあたり数万円程度)および不斉配位子を作成するためのキラル原料を多く必要とすることを想定している。そのため、助成金の使用の大半はこれらの試薬の購入に充てる予定である。また、国内および国際学会にも出席する予定であるため、その参加費および旅費にも助成金を使用する予定である。
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