π位相シフトジョセフソン接合(π接合)を含む超伝導量子干渉素子(SQUID)を構成すると、π接合の負性インダクタンス特性により、外部からエネルギーを与えない場合でも、従来のSQUIDと比べてエネルギーが高い状態を実現することができる。これは量子化条件とπ位相シフトが合わさり初めて実現される特異な特性である。 π接合を1つ含むSQUID(π-SQUID)を構成した場合には、電流または磁束を印加すると、負性インダクタンス特性に応じたエネルギー分配によって、インダクタンスに流れる電流、即ち磁束が増加し元よりも大きな等価自己インダクタンスとして振る舞う。半磁束量子(HFQ)回路における配線インダクタをπ-SQUIDに置き換えることで、HFQ回路における配線長の問題を解決し、小面積HFQ回路の実現が期待できる。負性インダクタンスの交流応答特性を調べるため、印加電流振幅に対する応答電流振幅の周波数依存性について解析した。周波数特性は位相変化の大部分を担う接合抵抗及び接合容量に依存することが明らかになった。 負性インダクタンス特性について更に理解を深めるため、磁束伝送回路(π-FTC)において入力磁束と出力磁束の比である伝送係数について解析を行った。静特性において伝送係数はβL=2πLIcπ/Φ0(L:π-FTCの合成インダクタンス、Icπ:π接合の臨界電流値)及び入力磁束、つまり入力電流の大きさによって決定する。数値計算ではπ-FTCにおける伝送係数が従来のFTCに比べて増加し、βLを調整することで伝送係数の従来限界である0.5を超えることを示した。βL=0.81、0.98に対応する等価的なπ接合の臨界電流値50 μA、60 μAを持つπ-FTCの作製を行った。実験において伝送係数は従来のFTCよりも増加し、入力電流が接合の臨界電流値までの範囲では両方のβLで3倍以上の伝送係数が得られた。
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