研究課題/領域番号 |
23KJ1105
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 渓介 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 障害児者のきょうだい / きょうだい / 障害 / 家族内役割 / 自己分化 |
研究実績の概要 |
本研究では,障害児者のきょうだいが担う家族内役割と心理的不適応との関連について,(1)家族内役割を多面的に捉えた上で,(2)家族内役割と心理的不適応との関連における自己分化調整仮説の検証を目的としていた。 2023年度は,まず(1)障害児者のきょうだいが子ども時期に家族内で担う家族内役割を測定する尺度を作成した。予備調査で作成した尺度原案を用いて,調査を行った結果,「同胞のケア」,「不平等感」,「家族関係の取り持ち」,「同胞に対する期待の補償」,「同胞との関係回避」「親への気遣い」の6因子からなる尺度が作成された。尺度の信頼性と妥当性も確認された。研究の成果は,国内学会にて発表を行った。 続いて,(2)(1)で作成した尺度を用いて,障害児者のきょうだいが担う家族内役割と心理社会的不適応との関連を自己分化が調整するという自己分化調整仮説を検証した。その結果,家族内役割と心理的不適応との関連における自己分化の調整効果はみられなかった。そこで,分析結果や先行研究を踏まえて仮説モデルを再考し,家族内役割を担うことで自己分化が低下し,その結果として心理社会的不適応に陥るという自己分化媒介モデルを検討した。分析の結果,障害児者のきょうだいが担う家族内役割と心理的不適応との関連を自己分化が完全媒介することが示された。すなわち,障害児者のきょうだいは,「同胞のケア」,「家族関係の取り持ち」,「同胞に対する期待の補償」,「親への気遣い」という役割を多く担い,なおかつ「不平等感」や「同胞との関係回避」という否定的な感情が高い場合に,自己分化の度合いが低下し,その結果として心理的不適応に陥る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は,年度当初に予定していた2つの研究を予定通り実施することができた一方で,当初予定していた仮説と異なる結果が示されたことにより新たな課題も明らかとなった。当初想定していた結果は,障害児者のきょうだいが担う家族内役割と心理社会的不適応との関連を自己分化が調整するという自己分化調整モデルであった。しかし,分析の結果,自己分化調整モデルは支持されず,家族内役割を担うことで自己分化が低下し,その結果として心理的不適応に陥るという媒介モデルが示された。当初の仮説とは異なる結果が得られたものの,予定していた研究までは終えることができたことから,おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画として,2024年度は事例による自己分化調整仮説の検討を予定していた。 しかしながら,2023年度の研究により,自己分化は障害者きょうだいが担う家族内役割と心理的不適応との関連における調整要因ではなく,媒介要因である可能性が示された。そのため,2024年度は新たに得られた自己分化媒介モデルをより詳細に検討することを目的として追加調査を行う。具体的には,家族内役割を担うことで自己分化が低下する機序について検討するために,関連する要因を含めて,家族内役割と自己分化との関連を再検討することを計画している。具体的な変数については,先行研究をもとに選定を進めている段階である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に実施した調査において,以下の理由により当初の計画と異なる使途となった。まず,参加者に対する謝礼に関して,謝礼希望者に電子メールでAmazonギフト券を送付した。しかし,一部対象者が受け取りが完了しない状態が続いており,期限までに処理が完了しなかった。加えて,不足したサンプル数を補う目的でweb調査を行ったことにより,当初予定していた旅費や人件費を調査費用へと使用した。さらに,当初と異なる研究結果が得られたことによって,追加の調査等を含めた今後の研究計画の再検討が生じた。上記に係る2023年度中の予算の使用や次年度の追加調査を踏まえた予算計画の調整に難渋したため,2024年度へと繰り越す判断をした。 2024年度は,前年度より繰り越した研究費を合わせて,①追加の調査に係る謝礼やweb調査のための費用,②研究成果公表や情報収集のための学会参加旅費として使用する予定である。
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