研究課題/領域番号 |
23KJ1112
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古川 佐和子 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 知的発達症 / 全ゲノム解析 / 構造バリアント |
研究実績の概要 |
所属分野(名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学)が保有する、アレイCGHで病的バリアントが検出されていない自閉スペクトラム症(ASD)トリオ57家系を対象にショートリード法による全ゲノム解析を実施した。 研究実施者は、1人あたり平均72個のde novoバリアントを検出するパイプライン、およびアレイCGHの検出結果を89%再現するパイプラインを構築した。本状況下で、トリオ解析を一塩基バリアント(SNV)から構造バリアント(SV)やコピー数バリアント(CNV)、タンデムリピート、ミトコンドリアゲノム上のバリアント、ポリジェニックリスクスコアまで実施し、57人のASD患者のうち18人(31.6%)に病的バリアントの候補を検出した。そのうち2名に対しては遺伝カウンセリングを実施し、結果開示に至った。当該患者に対してはiPS細胞の樹立の同意を得ており、今後iPS細胞を樹立し、機能解析を検討している。 一方、重度の知的発達症を伴うような表現型が重篤な患者であるのにも関わらず、有力な候補バリアントが検出されていない場合も存在した。そのような家系に対しては、現在急速に発展しているロングリードシーケンス法によりショートリード法では検出困難である複雑なSVやメチル化の情報を検索する予定である。現在、ロングリードシーケンスを実施する家系を選定中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属する名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学が保有する、アレイCGHで病的バリアントが検出されていない日本人自閉スペクトラム症家系74家系を選定し、末梢血及び唾液由来DNAを用いてショートリード法による全ゲノム解析(whole genome sequencing: WGS)を実施した。74家系分のgVCFファイルをジョイントコールして一塩基バリアント(SNV)及び小規模な挿入欠失(INDEL)を検出し、家系単位でde novoバリアントを検出するパイプラインを構築した。厳密な品質管理のもと、57家系を後の解析対象とした。その後、コピー数バリアント(CNV)を含む構造バリアントを複数のアルゴリズム(CNVkit, Manta, DELLY)を組み合わせて用いることで精度良く検出し、リピート配列、ミトコンドリアゲノム上のバリアントも含んだ包括的なゲノム解析を実施した。特に稀なバリアントに着目して、57人のASD患者のうち18人(31.6%)に病的バリアントの候補を検出した。その中でも知的発達症を伴うASD患者(23人)では10人(43.5%)の患者に病的バリアントの候補を検出した。18名のうち、3名は既知の表現型と一致しており、開示の対象となった(1名は逝去されており対象外となった)。加えて、Commonバリアントから当該コホートにおけるポリジェニックリスクスコアも検出し、稀なバリアントとの関連をチェックした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでショートリード法による全ゲノム解析で57人のASD患者のうち18人に病的バリアントの候補が検出された。そのうち、既知の表現型と一致した患者についてはバリアント情報を開示し、本患者における病態のさらなる解明のため、iPS細胞を樹立し神経細胞に分化誘導する予定である。 知的発達症を伴う23人のASD患者のうち、10人には病的バリアントの候補が検出されているが、残りの13人には検出されなかった。特に重度の知的発達症を併存しているのにも関わらず、病的バリアントの候補が検出されていない患者については、ショートリード法で検出できない複雑な構造バリアントが発症リスクとなっている可能性がある。したがって、そのような患者を4例選定し、PacBio社のHiFiリードによるロングリードWGSを実施予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は解析用PCや試薬、及び学会参加費に予算を投じた。次年度使用額となった52,695円は次年度に実施するロングリードWGSの試薬代の一部として計上する。
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