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2023 年度 実施状況報告書

ウイルス感染が変える植物ー昆虫相互作用とその分子機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 23KJ1223
研究機関京都大学

研究代表者

大坪 雅  京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)

研究期間 (年度) 2023-04-25 – 2025-03-31
キーワード植物分子生態学 / カブモザイクウイルス / ハクサンハタザオ / アブラムシ / トランスクリプトーム解析 / 自然環境下 / ウイルスー植物相互作用 / 共存
研究実績の概要

初年度は、「カブモザイクウイルス(TuMV)感染が宿主植物ハクサンハタザオの遺伝子発現を変化させ、宿主へのアブラムシによる被害を軽減させている」との仮説の検証のために、(1)野外調査による、ウイルス感染植物上でのアブラムシ数の調査(2)室内操作実験によるアブラムシ活動の観察(3)トランスクリプトーム解析を行った。
(1)野外調査では、対象植物ハクサンハタザオ上でアブラムシが観察された4月中旬から6月にかけて週1回の頻度で兵庫県多可郡多可町門前にある調査地で行った。その結果、TuMV感染植物上でアブラムシ数が有意に少ない日が複数回あった。
そこで(2)室内操作実験を行い、アブラムシ数の減少の要因として考えられる、移動の促進・アブラムシ産子数の増加のどちらにウイルスの感染は強く影響を与えるかについて検証を行った。その結果、ウイルス感染の有無はアブラムシの植物間の移動には影響せず、産子数の減少を有意に引き起こすことが明らかになった。
さらに、どのような植物の変化がアブラムシの産子数の減少に寄与しているのかを明らかにするために(3)自然環境下から採取した葉のトランスクリプトーム解析を行った。TuMV感染の有無、アブラムシの存在の有無で4グループに分け、TuMVおよびアブラムシ両方存在しない時のトランスクリプトームとの比較解析を行った。その結果、TuMVおよびアブラムシ両方が同時に存在する個体で有意に発現変化する遺伝子数が、どちらか片方の存在下の個体に比べ多いことが明らかになった。また興味深いことに、これまでアブラムシの吸汁や産子数を増加または減少させると報告のある遺伝子の多くは、有意な発現変化が見られなかった。一方で、いくつかの一次・二次代謝物合成の経路全体で発現変動がみられ、ウイルス感染によるアブラムシ産子数の減少に新規の分子メカニズムが寄与していることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の計画どおり、野外調査、室内実験、トランスクリプトーム解析を実施した。これまでの報告とは異なり、「カブモザイクウイルス(TuMV)感染が宿主植物ハクサンハタザオの遺伝子発現を変化させ、宿主へのアブラムシによる被害を軽減させている」という新規相互作用を明らかにできた。一方で、トランスクリプトーム解析では既知のメカニズムでは説明できない可能性が示された。ウイルス感染によるアブラムシ産子数の減少に新規の分子メカニズムをが示唆されたため、今後、因果関係を明らかにするための検証が必要である。
また、これまでの研究成果の一部は、2つの国際学会と2つの国内学会にて報告することができた。
これらの状況を加味し、2023年度はおおむね順調に研究を進展できたと判断した。

今後の研究の推進方策

最終年度は、カブモザイクウイルス感染植物上でアブラムシ産子数が、どのような分子機構で起きているか因果関係を明らかにするための検証を行う。研究業績の概要欄に記したトランスクリプトーム解析の結果をもとに、カブモザイクウイルスに感染すると発現が高くなる遺伝子の中から、アブラムシ防御に関わることが予想される遺伝子を選抜した。その選抜した遺伝子について、ハクサンハタザオに近縁のモデル植物シロイヌナズナを使って検証をおこなう。現在、対象遺伝子にT-DNAが挿入されている変異体、35Sプロモーターで対象遺伝子を過剰発現させた変異体を取得している。これらの植物を用いて、室内でアブラムシ産子数の変化、また、アブラムシ産子数の減少によるウイルスの伝播率の変化を検証する。
昨年度までの研究成果は、現在執筆中で5月中の投稿を目指す。全体の研究成果は3月に金沢で行われる日本植物生理学会年会において発表する予定である。

次年度使用額が生じた理由

昨年度の計画に、論文の投稿を入れていたが、昨年度中の投稿ができず、校閲または出版費用として計上していた分を使用できなかった。発生した差額は、当初の予定通り、論文の校閲、出版費として本年度使用予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Molecular characterization of <scp>SrSTP14</scp>, a sugar transporter from thermogenic skunk cabbage, and its possible role in developing pollen2023

    • 著者名/発表者名
      Koyamatsu Daiki、Otsubo Miyabi、Ohira Tomonori、Sato Mitsuhiko P.、Suzuki‐Masuko Hiromi、Shiota Takuya、Takenaka Takano Kohei、Ozeki Masaaki、Otsuka Koichi、Ogura Yoshitoshi、Hayashi Tetsuya、Watanabe Masao、Inaba Takehito、Ito‐Inaba Yasuko
    • 雑誌名

      Physiologia Plantarum

      巻: 175 ページ: e13957

    • DOI

      10.1111/ppl.13957

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ハタザオへのカブモザイクウイルス感染はアブラムシ防御を向上させる2023

    • 著者名/発表者名
      大坪 雅, 工藤 洋, 本庄三恵
    • 学会等名
      第55回種生物学シンポジウム
  • [学会発表] Turnip mosaic virus improves plant defense against aphids in Arabidopsis halleri2023

    • 著者名/発表者名
      Miyabi Otsubo, Hiroshi Kudoh, Mie N. Honjo
    • 学会等名
      the 65th Annual Meeting of the Japanese Society of Plant Physiologists
  • [学会発表] Effects of Turnip mosaic virus on Arabidopsis halleri-aphid interaction and the exploration of its causal genes in a natural environment2023

    • 著者名/発表者名
      Miyabi Otsubo, Hiroshi Kudoh, Mie N Honjo
    • 学会等名
      International conference of Arabidopsis research 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] Turnip mosaic virus alters plant defense and gene expression against aphids in Arabidopsis helleri2023

    • 著者名/発表者名
      Miyabi Otsubo, Hiroshi Kudoh, Mie N Honjo
    • 学会等名
      IRN France-Japan Frontiers in Plant Biology Symposium 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] 自然環境下でカブモザイクウイルスのハクサンハタザオへの感染はアブラムシ個体数を減少させる2023

    • 著者名/発表者名
      大坪雅
    • 学会等名
      Plant Microbiota Research Network
    • 招待講演

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公開日: 2024-12-25  

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