本研究の目的は我が国における熱中症対策のため、47都道府県すべてに共通する予測モデルの実装である。今年度は主に(1)地域性を加味した熱中症発症者予測式の検討と評価、(2)熱中症発症者予測式の気候変動シナリオへの実装に取り組んだ。 (1)地域性を加味した熱中症発症者予測式の検討と評価 2015年から2019年までのデータを基に、年齢群別(7-17歳、18-64歳、65歳以上)の熱中症発症リスクのモデルを構築した。このモデルは、日最高湿球黒球温度(WBGT)を閾値として用い、地域ごとの差異を明らかにした。分析の結果、閾値WBGTは南へ向かうほど高くなり、5月から9月にかけての日最高WBGTと閾値の間には正の相関関係が存在することが示された。これにより、暑熱馴化の長期的傾向を示すモデルの開発につながった。また、東京都、大阪府、愛知県の3地域において、暑熱馴化の概念をモデルに組み込むことで、予測精度が向上することが確認された。さらに、日・WBGT別の搬送時死亡率と日最高WBGTとの関係を示すモデルでは、死亡リスクが上昇を開始するWBGTで地域差が見つかり、熱中症による死亡者の大多数が50歳以上であることが判明した。47都道府県における検討については学会発表を行った。 (2)熱中症発症者予測式の気候変動シナリオへの実装 (1)で開発した予測モデルを用いて47都道府県において3つの年齢群におけるRCPシナリオ毎に2100年までの人口10万人当たりの熱中症搬送者数の推定を行った。RCP1.9でも2015-19の5年中央値と比較して熱中症搬送者数が日本全体で2倍以上になることは避けられず、RCP8.5については地域によっては2070年以降に5倍以上となることが判明した。予測した患者数をもとに、高齢者層と7-17歳の年齢群において患者数を減少させる適応策検討を東京都で実施し、高齢者層については論文発表を行った。7-17歳における検討については現在論文投稿中である。
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