研究実績の概要 |
本研究では、実用輝度域における効率低下を抑制するべく、三重項励起子の迅速な光変換を実現する新規発光材料の創出に取り組んだ。令和5年度では、逆項間交差(RISC)の速度定数(kRISC)の向上に、二つの異なるアプローチでそれぞれ取り組んだ。熱活性化遅延蛍光(TADF)は、最低励起一重項状態(S1)と最低三重項状態(T1)のエネルギー差(ΔEST)を小さくすることによりRISCが熱的に進行して発現する。これまでに高効率を示すTADF材料が多く報告されてきた一方で、一般的なTADF材料のkRISCは10^3-5 s^-1程度であり、三重項励起子の迅速な光変換にはRISCの高速化がきわめて重要である。RISCの促進には、小さなΔESTに加えて、励起一重項と三重項間の大きなスピン軌道相互作用(SOC)が重要である。SOCの増大には、電荷移動性の一重項と三重項(それぞれ1CTと3CT)と局所励起三重項(3LE)の三つのエネルギー準位の近接が有効である。そのような分子設計のもと得られた既報の3分子(Phox-Meπ, Phox-MeOπ, MeO3Ph-FMeπ)に対し、光物性測定からそれらのkRISCを評価したところ、いずれも10^6 s^-1を超える高速なRISCを示すことを実証した。また、重原子効果もSOCの増大に有効である。硫黄原子を分子構造に取り込んだ2BTp-mTCzと名づけたTADF分子を設計開発し、酸素原子類縁体(2BFu-mTCz)との比較検討を行った。実験から、2BFu-mTCzのkRSICは10^5 s^-1オーダーである一方で、硫黄原子体である2BTp-mTCzのkRISCは10^6 s^-1オーダーであり、重原子効果によるRISCの高速化を実現した。 今後、本研究で得られた基礎的知見をもとに、さらなる高性能発光材料の開発が期待される。
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