研究課題
本研究では,透明希薄磁性半導体としてMnドープ酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide : ITO)薄膜に焦点を当てている.MnドープITO薄膜は低い電気抵抗率と可視光領域での高い透過性に加えて室温での強磁性の特性を併せもつ.これらの特性はITO薄膜に少量のMnを添加することで発現するが,Mnの添加が薄膜の結晶性,表面状態,電気特性,光学特性,磁気特性などの物性に与える影響について体系的に調査した例は少ない.また,強磁性の発現機構についても未だ統一的な理解には至っていない.デバイスへの応用展開に向けて材料の本質を解明することが求められる.今年度は,MnドープITO薄膜の基礎物性の解明に向けて,結晶構造が周期的な単結晶薄膜成長技術の開発を目指した研究を行なった.薄膜の成膜法として,産業上,広く適用されているマグネトロンスパッタリング法を用いた.イットリア安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia : YSZ)単結晶基板上に,MnドープITO薄膜を450℃の高温下で成膜することで単結晶MnドープITO薄膜が得られることがわかった.MnドープITOとYSZ単結晶基板の格子整合度,高温成膜による粒子拡散長の増大が単結晶成長の主たる要因になっていることが明らかになった.Mnの添加量が異なる薄膜を作製した結果,低い添加量であるほど,良好な結晶性,表面の平滑性,低い電気抵抗率,可視光領域での高い透過性といった優れた物性を示すことがわかった.また,放射光施設(Spring-8)における光電子分光の実験を行い,薄膜中でのMnの電子状態を解析することで,Mnの添加が電気特性に与える影響について解明した.さらに,Mn以外の磁性元素の添加も検討しており,Cr添加においてより大きな磁化の磁気ヒステリシスをもつことが観測された.今後は薄膜組成など,薄膜プロセスの一部を変えた単結晶MnドープITO薄膜を用意し,強磁性の発現機構の解明を目指す.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定として,MnドープITO薄膜の単結晶薄膜成長技術の開発を掲げていた.昨年度はそれに加えて,Mnの添加量と物性の相関を調査することができた.また,光電子分光に関する専門家との共同研究によって,MnドープITO薄膜中でのMnの電子状態を解析したことでミクロな立場からより核心に迫った考察を行うことができた.これによって,添加されたMnが価電子帯近傍において状態をもつことが明らかになった.これは,キャリア誘起相互作用に関連する非常に有益な知見であり,強磁性の発現機構に迫る重要な結果である.これにより,進捗として当初の予定を超越して順調に進呈していると判断できる.
昨年度はMnドープITOの単結晶薄膜成長技術の開発に成功した.また,Mn添加が薄膜の物性に与える影響も明らかになった.本年度は薄膜組成など,薄膜プロセスの一部を変えることで磁性の起源に関与すると予測されるパラメータを制御した単結晶MnドープITO薄膜を作製し,それらの物性を精密に評価することで強磁性の発現機構の解明を目指す.
購入予定の単結晶基板の納期が次年度にずれ込んだため.本年度での購入に充てる.
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