本年度では、K48結合型環状ユビキチン鎖(環状Ub鎖)のシグナル分子としての機能性に関わる物性や分子認識を、溶液NMR法などの物理化学的手法を用いて解析した。 (1) 物性解析 本研究では、Ub鎖の環化はタンパク質分解酵素に対する耐性、熱力学的および動的な構造安定性を増加させることを明らかにし、環状Ub鎖は同じ結合型の直鎖状(非環状)のものと比較して細胞内で安定に存在することが示唆された。また、NMR横緩和分散測定により、環状Ub鎖はミリ秒からマイクロ秒オーダーの動的構造変化を有することが示された。この動的構造変化は粗視化MDシミュレーションにおいても観測することができ、環状Ub鎖は、一過的に数多くのUb結合タンパク質に認識されるIle44パッチを露出した高次構造を形成することが示された。 (2) ZNF216による分子認識 細胞内タンパク質であるZNF216は、Ub結合ドメイン(A20 Znf)を介して基質タンパク質に付加されたUb鎖と相互作用し、ユビキチン-プロテアソーム経路による基質タンパク質の分解を促進する。本研究において等温滴定型カロリメトリーによる定量的相互作用解析を行なったところ、環状Ub鎖は非環状のものと比べ、A20 Znfに強く結合することが明らかとなった。また、溶液NMR滴定実験による原子レベルでの相互作用界面の解析の結果から、環状Ub鎖の非環状のものと比べて抑制された開閉運動が、A20 Znfとのより広い分子表面を介した相互作用に寄与することが示唆された。これらの結果と物性解析での安定性の結果から、環状Ub鎖はA20 Znfを介してZNF216と細胞内で安定に相互作用する可能性がある。さらに、環状Ub鎖は基質タンパク質に結合するC末端を有していないため、ZNF216と安定に相互作用することで、ZNF216が関わるタンパク質分解を阻害する効果が考えられる。
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