研究課題
性は遺伝的多様性を創出する根幹のひとつであり、性を決定する性染色体の獲得は真核生物において繰り返し起こっている。そのため性染色体の進化過程の解明は生物学における重要な課題である。被子植物の約6%を占める雌雄異株植物は、雄と雌が別個体に分かれており性染色体をもつ。しかしながら、雌雄異株植物ではどのようにX染色体とY染色体のような異なる性染色体の分化が起こっていくのかは明らかになっていない。本研究は、XY 性決定型の雌雄異株植物ヤマノイモ属オニドコロ (Dioscorea tokoro)を対象とし、性染色体の分化過程を解明することを目的とする。これまでの研究により、オニドコロの性染色体上の遺伝構造の解明を行い、X染色体に特有の領域(X領域)とY染色体に特有の領域(Y領域)があることを明らかにした。さらに、X領域およびY領域の高精度ゲノム配列の再構築を進め、RNA-seqとsmall RNA-seqによる発現比較により、Y領域上に雄花で高発現する2つの性決定候補遺伝子を同定した。続いて、性染色体の分化過程を推定するため、地域間で性染色体を比較しオニドコロの性決定領域には地理的変異があることを明らかにした。この地理的変異を詳細に調査するため、分布域全体を網羅する13野外集団でのサンプリング・DNA抽出を行った。これらの野外集団の全ゲノムリシーケンスを行い、集団遺伝解析を行うことで、性染色体の分化過程の推定を進める。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、これまでのゲノム解析に加えて、small RNA-seqによる器官ごとの発現比較、すでに報告のあるオスのリファレンスゲノムの向上、未構築であったメスのリファレンスゲノムの作成、性決定領域の地域間比較を行った。さらに、開花時期である7月~9月にかけて9野外集団で雌雄のサンプリングを完了した。一方で、形質転換による候補遺伝子の機能証明についてはさらなる検証が必要と考えられた。以上より本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
X領域およびY領域を含めた雌雄全ゲノムの高精度ゲノム配列の再構築を完了する。さらに、分布域全体を網羅する13野外集団について、全ゲノムリシーケンスを行い、集団遺伝解析を行うことで、性染色体の分化過程の推定を進める。
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