研究課題/領域番号 |
23KJ1360
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久保 朋美 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 植物の適応進化 / 雑草 / 抵抗性 / 収斂進化 / 異物代謝 / ストレス耐性 / CytochromeP450 / ゲノミクス |
研究実績の概要 |
背景:修士研究で水田の強害雑草タイヌビエにおいて、米国系統と新潟系統で同一の「除草剤代謝CYPs」が過剰発現して多剤抵抗性を獲得したことが判明した。本課題では、国内外のタイヌビエにおける多剤抵抗性の進化的平行性を検証するとともに「除草剤代謝CYPs」の内生機能解明に取り組む。 成果1:新たに国内で収集された抵抗性タイヌビエ4系統は多剤抵抗性を示し、いずれも除草剤の作用点遺伝子に既報の抵抗性点変異はなく、米国系統と同一の「除草剤代謝CYPs」の過剰発現が認められたことから、多剤抵抗性系統における代謝型メカニズムの収斂進化が新規系統においても示唆された。 成果2:多剤抵抗性を示す新潟系統について、感受性系統との交雑後代を作出して多剤抵抗性と連鎖するゲノム領域を探索すると、5A染色体前半に約0.5 Mbのシングルピークが認められ、興味深いことに先行研究で同定された米国系統の抵抗性原因ゲノム領域と一部重複していた。このことから、日米のタイヌビエにおいて「同一因子」を利用して、下流の「除草剤CYPs」を活性化させることで多剤抵抗性が進化した可能性が示唆された。 成果3:タイヌビエにおける多剤抵抗性進化の起源を探るため、日米のタイヌビエを供試した系統解析に向けてdpMIG-seqのライブラリを調製した。 成果4:「除草剤代謝CYPs」との共発現遺伝子探索を目的としたトランスクリプトーム解析に向けて、ストレス処理により「除草剤代謝CYPs」を高活性化・低活性化させたサンプルを経時的に採取し、qPCRによって3遺伝子の経時的な発現変動を確認した。 成果5:「除草剤代謝CYPs」の内生機能を推定するために、米国の多剤抵抗性系統と感受性系統の地上部と地下部をCE-MS解析に供試し、蓄積量が顕著に異なる一次代謝物として17種のカチオン、9種のアニオンを同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、新規抵抗性タイヌビエのメカニズム解析を進め、新規系統においても代謝型抵抗性メカニズムの収斂進化が強く示唆された(成果1)。さらに、日本系統が示す多剤抵抗性の原因領域をGWASで探索してゲノム上の一領域を同定し、米国系統の多剤抵抗性原因領域と部分的に重複することを発見した(成果2)。また、タイヌビエにおける集団遺伝構造を解析するため、日米タイヌビエ約150集団のdpMIG-seqライブラリを調整し、シーケンスとSNPs抽出を完了した(成果3)。「除草剤代謝CYPs」との共発現遺伝子探索に向けたRNAサンプル調製を完了し(成果4)、内生機能推定のためにノンターゲットメタボローム解析によって多剤抵抗性系統に特異的な蓄積を示す一次代謝物を同定した(成果5)。 次に計画以上に進展した点を挙げる。成果2から、日米タイヌビエにおける多剤抵抗性原因ゲノム領域の重複領域に注目して、過去に取得したリシーケンスデータを再解析した。重複領域の配列データを系統間で比較したところ、日米の多剤抵抗性タイヌビエに特異的な約4 kbの挿入を発見し、本領域には解糖系の重要酵素遺伝子が座上していた。さらにRNAseqデータの再解析により、解糖系副産物「Methylglyoxal(MG)」代謝酵素遺伝子が日米の多剤抵抗性系統で特異的に過剰発現していることが明らかとなった。多剤抵抗性系統におけるMG代謝系の高活性化が示唆され、「除草剤代謝CYPs」の内生機能にMG代謝系が関連する可能性が考えられた。さらに、成果3に関連した系統関係の予備解析により多剤抵抗性の原因ゲノム領域が水田外に生息する集団に由来する可能性が見いだされた。研究計画に沿って得られた成果に基づき、独自の視点で過去データの再解析に取り組み、今後の研究の発展につながる新仮説を着想するに至ったため、研究計画を上回る研究の進展と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1) 国内外から収集したタイヌビエの系統関係を解析する。 2) 水田外の集団を対象に採集し、集団構造を解析する。 3) 水田外の集団との交雑後代を作出する。 4) イネにおける変異体を作出し、重複領域上の候補遺伝子の機能を解析する。 5) タイヌビエに温湯除雄法を適用した簡易な交雑方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、dpMIGseq解析およびメタボロームノンターゲット解析などの大規模な網羅的解析を実施した。また、2件の国際学会と2件の国内学会を含む研究発表会に参加して研究成果の公表に努め、さらなる研究課題発展のために国内外の研究者との積極的な研究交流の機会を設けた。主にこれらの研究活動に助成金を使用した。 次年度使用額が生じた理由としては、2件の国際学会参加に際した渡航費の一部として学内外の国際学会渡航支援金を獲得したことがあげられる。また、本年度の成果として、前年度にシーケンスを完了していたデータの解析を進め、日米集団の多剤抵抗性原因領域における重複を発見したことがあげられるが、本発見以降は先行研究のデータの再解析などに注力した。これにより、新たにNGS解析などの大規模なデータを取得することなく研究課題を発展させたため、当初の予定よりも当該年度の使用額が少なくなった。 翌年度請求分の助成金は、当初の予定通り「成果1」で新規に発見した国内の多剤抵抗性タイヌビエのメカニズム解析や「成果4」で調製したRNAサンプルを用いたRNAseq解析のために使用する。次年度使用額については、「成果2」により注目し始めた水田外集団の採取と解析に供試する予定である。
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備考 |
①2023年11月22日第19回植物縦横無尽の会ワークショップ、ポスター「A novel amino acid substitution shapes the Weed evolution of herbicide resistance in a paddy weed」 ②2023年12月21日ANRI基礎科学スカラーシップ奨学生5期生研究交流会、口頭発表「雑草における除草剤抵抗性メカニズムの解析」
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