研究課題/領域番号 |
23KJ1404
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
島添 和樹 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 人工光合成 / バンド構造変調 / 酸化インジウム / 光触媒 / 水素生成 / ミストCVD |
研究実績の概要 |
本研究はバンド構造変調に着目した無バイアス可視光応答型人工光合成材料の開発を目的としており、特に酸化物半導体であるIn2O3へのBi添加による可視光応答性の付与についての研究を実施した。今年度はBi添加In2O3薄膜を作製しそのバンド構造の調査と人工光合成応用への基礎実験を実施した。 理論計算による先行報告ではIn2O3へBiを添加するとBiによる中間準位が価電子帯上端のやや上側に形成されることが報告されている。しかしながら、Bi添加In2O3のBi中間準位の位置は実験的には明らかになされていない。そこで、電子収量分光法を用いてBi添加In2O3のバンド構造の調査を行った。その結果、真空準位から6.54 eVの位置に中間準位が存在し、価電子帯は7.60 eVの位置に存在することが分かった。分光透過率測定の結果から得られたバンドギャップとPYS法の結果を考慮すると中間準位は価電子帯側に存在することが明らかとなり、先行報告の理論計算とも一致した。 更に、Bi添加In2O3の人工光合成の前段階として、光電極動作の実証を行った。光電極動作 は電気化学セルを用いて行った。Sn添加In2O3を下部電極として、その上へBi添加In2O3薄 膜を成長し光電極構造を作製した。リニアスイープボルタンメトリー測定によって、Bi添加In2O3とBiを添加していないIn2O3を用いた光電極の動作実証を行った。その結果、Bi添加In2O3のみ、可視光を照射した際に酸化電流が観測された。よってBi添加In2O3光電極が可視光に反応し、電極界面で酸化還元反応が生じたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時に予定していた、Bi添加In2O3のバンド構造評価および、その光電極の動作実証に成功している。特にバンド構造に関しては、理論計算と一致した傾向が見られており、人工光合成応用に理想的なバンド構造をであると考えている。一方で無バイアスでの水分解やCO2還元といった点に関してはまだ実証できていない。水分解に関して、バンド構造的には無バイアスで可視光照射のみで分解が可能であると考えられるが、水素の定量のための装置の立ち上げが遅れており、未だ評価できていない。またCO2還元に関しては、伝導帯下端の準位をもう少し浅い位置にする必要があり、Bi添加量を変化させて最適なBi添加In2O3の作製を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
Bi添加In2O3薄膜の電気的特性は人工光合成の効率などにもかかわる重要なファクタである。そこで、次年度はBi添加In2O3の電気的特性評価を実施する。また、引き続き、無バイアスでの人工光合成応用に向けて水素発生量を定量するための装置の立ち上げを進めてゆく。無バイアスでのCO2分解が可能なバンド構造を有するBi添加In2O3作製に向けて最適な成長条件の決定も行う予定である。 これまで、Bi添加In2O3薄膜は石英基板上に成長を行ってきたため、多結晶薄膜として結晶が得られていた。Bi添加In2O3の更なる応用先の開拓のため、石英基板のみならずサファイアやYSZ基板など結晶性基板上へのBi添加In2O3の成長を行い、その構造評価などを実施し、Bi添加In2O3の更なる応用先の開拓を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Bi添加In2O3を用いた人工光合成応用の実験の際に生じる水素ガスの定量のためのガスクロマトグラフィー装置の立ち上げを行い、その際に必要になる備品類のために使用予定であった予算が、立ち上げが遅れたために使用しなくなったため。 次年度にガスクロマトグラフィー装置が立ち上がり次第、その備品購入に充てる予定である。
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