研究課題/領域番号 |
23KJ1417
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大津 創 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 歩行 / 高齢者 / 転倒 / 数理モデル / 蹴り出し力 / Margin of Stability |
研究実績の概要 |
高齢者の歩行中の股関節屈曲トルクの増強は、Push-off期における蹴り出し力や歩行安定性を低下させる要因だと考えられているが、そのメカニズムは明らかではない。今年度はこのメカニズムを理解するために以下の研究を実施した。 コンパスタイプの歩行モデルを用いて、歩行速度を変えずに股関節筋の発火を表すバネ剛性のみを増加させた場合に、蹴り出し力、股関節屈曲トルク、安定性の指標であるMargin of Stability(MoS)がどのように変化するかを調査し、その関係がヒトの実験計測においても成立するかどうかを検証した。その結果、歩行速度が0.50~1.75 m/sの場合、股関節のバネ剛性が増加すると、モデルとヒトの歩行の両方で股関節屈曲トルクが増加し、蹴り出し力とMoSが減少することが明らかとなった。さらに、股関節屈曲トルクの増加はバネ剛性の増加によって説明され、蹴り出し力とMoSの減少はバネ剛性の増加に伴うステップ周波数の増加によって説明された。ここで、股関節屈曲トルクの増大と蹴り出し力およびMoSの低下は転倒リスクの高い高齢者に共通する特徴であり、この特徴は股関節のバネ剛性の増加によって説明された。この結果は、歩行アシスト装置の制御設計や、高齢者の歩行戦略についての理解の向上に寄与されると考えられる。 本研究結果について、2023年8月にバイオメカニクス分野の国際会議であるISB2023にて発表し、同年9月に国際誌であるScientific Reportsに出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトの歩行の数理モデルを用いた研究を実施し、特にヒトの歩行計測から同定した複数の特徴量をシミュレーション結果と比較することで、転倒リスクに関わる新たな知見が得られた。その成果をISB2023にて発表し、Scientific Reportsに出版された。以上より、上記評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度から現在にかけて、膝関節を有した歩行モデルを用いた研究を行っている。このモデルを使用して、股関節トルクと蹴り出し力の2つのパラメータがつまずきの発生や転倒の可能性にどのように影響を与えるのかについて調査している。具体的には、これらのパラメータが足と地面間のクリアランスやつまずきが発生した際の物理量の変化に与える影響を調査しており、現段階ではそれらの調査を行うためのモデル構築が完成したところである。こちらについても、論文化を目指して進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は計算負荷を分散させるための解析用コンピュータを購入する予定であったが、今年度の研究では結果として計算負荷がそこまで大きくならなかったため、購入しなかった。また、当初は論文掲載費に30万円かかることを想定していたが、所属機関の論文掲載に関する助成金に採択されたことによって必要がなくなった。 来年度からは、論文化に向けて1年目で購入に至らなかった解析用コンピュータを購入予定である。また、論文の掲載費用や学会参加費にも充てる予定である。
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