研究実績の概要 |
今日、水素 (H2) は6千万トン/年製造され、医薬品や日用品、肥料の製造プロセスにおいて不飽和化合物の水素化反応に利用されている。水素は褐炭やバイオマスなど炭素資源を水蒸気改質することで得られる粗水素 (主にCO,CO2を含む混合ガス) を高度に精製することで製造される。しかし、粗水素の精製過程は消費電力が多く、副次的にCO2を多量に排出するため、この改善が喫緊の課題と認識されている。本研究の目的は粗水素そのものを直接的に不飽和化合物の水素化反応へ活用する手法を開発することで、既存のH2精製プロセスに依存しない、革新的なH2活用システムを構築することである。交付申請書の作成時点で、H2/CO/CO2混合ガスを用いたカルボニル化合物の水素化反応が、高反応性ルイス酸-塩基対 (Frustrated Lewis Pair; FLP) 存在下にて効率的に進行することを確認していた。特別研究員採用期間中に、基質適用範囲の探索を行った。さらに、CO、CO2だけでなくCH4や水を含む、実際に工場から排出される粗水素を用いた場合においても反応が効率的に進行することを確認した。本結果はTetrahedron Chem誌から発表した。また、この反応達成の鍵はFLP触媒の精密設計であり、特に、トリアリールホウ素 (BAr3) におけるAr基のホウ素に対してメタ位 (3,5位) の置換基が反応効率に影響することがわかっていた。そこで研究員はメタ位の置換基がFLPの発生に与える影響を実験・理論化学計算を用いて詳細に考察した。その結果、BAr3が付加体を形成し、四面体構造をとったときのメタ位同士の分子内立体反発、メタ位とルイス塩基およびメタ位同士の非共有結合性相互作用の総和によって、付加体からのFLP発生が精密に制御されることがわかった。本結果はSynlett誌から報告した。
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