研究課題/領域番号 |
23KJ1446
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山田 敦也 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 縦型スピンバルブ素子 / Ge / Co2MnSi |
研究実績の概要 |
令和5年度は、Geを中間層に用いた高性能な縦型半導体スピン素子の作製に向け、縦型スピンバルブ構造の上部と下部の二つの強磁性体に高スピン偏極率が期待されるCo系ホイスラー合金、Co2MnSi薄膜を導入した全単結晶Co2MnSi/Ge/Co2MnSi三層構造を作製し、その詳細な構造評価を行った。研究代表者はこれまで、下部強磁性体に同じく高スピン偏極材料であるCo2FeSiを導入した縦型半導体スピンバルブにおいて、メモリ性能の重要な性能指標である室温磁気抵抗(MR)比の半導体スピンバルブ素子における世界最高値を更新してきた。先行研究の縦型構造において室温MR比の向上は達成することができたが、透過型電子顕微鏡(TEM)による詳細な構造分析ではGe/Co2FeSi界面ではCo原子とGe原子の相互拡散が存在することがわかった。そこで、研究代表者は新たな強磁性材料としてCo2MnSiに注目して実験を行った。Co2MnSi/Geヘテロ構造は研究代表者グループのこれまで横型半導体スピンバルブ素子に応用することで大きな室温MR比を達成している。研究代表者はCo2MnSiの膜厚や成膜の詳細な条件を探索しSi基板上にスピン信号を測定するのに十分な平坦性と結晶性を持つCo2MnSi/Ge/Co2MnSi縦型三層構造の作製を行った。また、TEMによる詳細な構造分析から、Co2MnSi/Ge/Co2MnSi縦型三層構造のヘテロ界面では従来まで研究代表者のグループで作製してきたCo2FeSi/Ge/Co2FeSi界面に比べ原子の相互拡散が大きく抑制されることが示された。私は令和5年度にこの結果をイタリアで開催された国際学会(ISTDM-ICSI2023)で発表し論文発表も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の実績は今後の縦型スピンバルブ素子を作製していく上で基礎的な構造であり、時間をかけて成長条件の探索を行った。研究計画では、令和5年度中にGe中間層のリン(P)のドーピングを行いn型Geに変調することで室温MR比の飛躍的な向上を目指していたが、年度内でそこまで達成することはできなかった。しかし、令和5年度の秋冬学期にはCo2MnSi/Ge/Co2MnSi縦型三層構造のGe中間層へのPのドーピング手法の確立や縦型スピンバルブ素子の素子構造や作製プロセスの改良、Co2MnSi/n型Ge/Co2MnSi縦型スピンバルブ素子の電気伝導特性とスピン伝導特性の評価に着手しており研究の遅れは早期に取り戻せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望として、現在まで積み上げてきたCo2MnSi/Ge/Co2MnSi縦型構造を作製する技術とGe中間層へのドーピング技術を組み合わせ高度化し、Co2MnSi/pnp-Ge層/Co2MnSiのような基本構造の実現を目指す。最終的には、この構造にサイドゲートまたはサラウンディングゲートを取り付けることにより、室温での磁気抵抗効果の観測とゲートによる電流のON/OFF動作の同時観測を目指す。作製しているCo2MnSi/Ge/Co2MnSi縦型構造は250度より高い温度ではヘテロ界面で原子の相互拡散が起こることがすでにわかっている。そのことから、ゲート作製プロセス中の熱処理においてスピン注入効率が著しく低下することが考えられるため、ゲート作製プロセスの低温化とCo系ホイスラー合金/Ge界面の熱耐性向上の両面を考えていく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に作製した試料を依頼分析に回す予定であったが、年度に間に合わなかった。翌年度に繰越し依頼を行なった。
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