ナトリウム利尿ペプチド(NP)欠乏状態のマウスモデル(CR9-KOマウス)における心臓の糖利用の亢進の分子機序の解明を目指し、エネルギー基質としての脂肪酸利用障害に着目した。心臓組織のOil Red O染色を実施し、CR9-KOマウスでは脂肪滴が有意に増加していることを確認した。さらに、心臓トリグリセリド(TG)量の定量分析により、CR9-KOマウスでTG量が有意に多いことが明らかになった。これらの結果から、CR9-KOマウスではエネルギー基質としての脂肪酸利用が低下しているため、心臓で糖利用が亢進していると考えた。NPはホルモン感受性リパーゼ(HSL)を介した脂肪分解作用が報告されているため、脂肪滴分解の障害が脂肪酸利用の低下に影響していると仮説を立て、HSLとNPの関係をin vitroで評価した。新生ラット心筋細胞において、ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)負荷及びHSLの過剰発現による脂肪滴の分解能の亢進、PKG活性化部位を失活させたHSL(S26A変異体)での分解能の低下を確認した。これらの結果は、NPによるPKGを介した脂肪滴の分解作用の低下が、脂肪酸利用障害及び糖利用の亢進をきたしている可能性を示唆するものであった。また、NP 欠乏状態における高脂肪食の影響に関しては、高脂肪食で飼育したCR9-KOマウスにおいて、高脂肪食で飼育した野生型マウスと比較して、血中レプチン濃度が著明に上昇していることを確認し、NP欠乏と高脂肪食によって誘発されるメタボリックシンドローム及び心機能の保たれた心不全(HFpEF)におけるレプチン抵抗性が関連している可能性を見出した。
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