研究課題
認知症の早期発見は、発症予防および進行予防において重要な課題である。令和5年度は、主観的認知障害(SCI)の患者の中で、将来的に認知症への移行リスクが高い患者の検出に有効な神経心理学的指標を絞り込むことを計画していた。先行研究の知見の整理と神経心理学的検査のスコアの比較結果から、論理的記憶課題、図形模写課題、及び、もの忘れの自覚の有無が、認知症への移行リスクが高い患者の検出に有効な指標となりうることが示唆された。そこで、これまで定量的スコアリングが困難であった図形模写課題に着目し、認知症発症前の立方体透視図模写の検査結果のみを用いて、3年以内の認知症への移行を予測するための機械学習モデルの開発を行った。立方体透視図模写画像からは、辺の本数や平行性、交点の数などの局所特徴量に加えて、異常検知モデルと転移学習を利用して抽出された全体特徴量を用い、決定木ベースのアンサンブル分類器でモデルの訓練および評価を行った。その結果、最終的に予測精度75-80%、AUC0.79-0.86に到達した。本研究は、記憶ドメインを使用せずに視空間認知に関する1項目の検査結果のみを用いて、将来的な認知症への移行を予測するというアプローチであり、このような研究は稀少である。これらの成果の一部は、第18回日本応用老年学会大会、2023年度数理腫瘍学年末研究会、日本応用数理学会第20回研究部会連合発表会で発表を行った。また、近日中に国際ジャーナルに原著論文として投稿し、6月に行われる第66回日本老年医学会学術集会においても発表予定である。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度は、主観的認知障害(SCI)の患者の中で、将来的に認知症への移行リスクが高い患者の検出に有効な神経心理学的指標を絞り込むことを計画していた。すでに指標の絞り込みを終えており、さらに、未発症時点で描かれた立方体透視図模写の検査結果のみを用いて、3年以内の認知症への移行を予測するためのモデル開発も完了している。これらの成果は、近日中に原著論文として国際ジャーナルへ投稿する予定である。
令和6年度は、立方体透視図模写検査と同時期に収集された「もの忘れの自覚」に関するテキストデータを用いて、3年以内の認知症への移行を予測するためのモデルの開発を行う。令和5年度に行った自然言語処理による予備的解析では、データの前処理と形態素解析を実施した後、3年以内に認知症へ移行した患者と移行しなかった患者との間で、単語の出現頻度の違いを比較検討した。その結果、3年以内に認知症へ移行した患者では、「忘れ」と「ない」という単語が高頻度で出現することが明らかになった。サポートベクターマシンを使用して認知症への移行を予測するモデルを訓練および評価した結果、現段階で77.8%の精度が得られている。今後、さらに精度改善に向けて、予測に有効な特徴量の生成および抽出を行う予定である。
当初、3月に原著論文投稿のための英文校閲費を執行する予定であったが、3月末までモデルの精度改善のための試行錯誤を続けていたため、次年度使用額が生じた。現在、原著論文執筆中であり、近日中に英文校閲費として執行予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
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