研究課題/領域番号 |
23KJ1597
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
新谷 亜蘭 鳥取大学, 共同獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 下垂体前葉 / 幹細胞 / ホルモン産生細胞 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
内分泌中枢である下垂体の機能不全に対する根治療法はまだ開発されていない。本研究では下垂体前葉の組織幹細胞(以下、下垂体幹細胞)を用いた人工下垂体前葉の構築方法を確立し、これを再生医療に応用することを目指している。初年度は1.下垂体幹細胞の分離メカニズムの解明および2.人工下垂体前葉の形成メカニズムの解明を目的に実験を行い、以下のような成果を得た。
1.下垂体幹細胞の分離メカニズムの解明:Ⅳ型コラーゲン上に下垂体前葉初代細胞を播種し、増殖した細胞の性質を解析した。定量PCRの結果、Ⅳ型コラーゲン上で増殖した細胞の下垂体幹細胞マーカー発現量は従来の方法よりも低く、下垂体前葉ホルモン遺伝子発現量は高かった。免疫細胞化学では、Ⅳ型コラーゲン上で増殖した細胞の下垂体幹細胞マーカー陽性細胞の割合は従来の方法と比較して差が無かったが、Ⅳ型コラーゲン上で増殖した細胞では従来の方法では見られなかったホルモン陽性細胞が僅かに確認された。以上のことから、下垂体幹細胞の接着・増殖におけるⅣ型コラーゲンの部分的な関与が示された。一方、幹細胞性の維持には別の因子の関与が示唆された。
2.人工下垂体前葉の形成メカニズムの解明:下垂体幹細胞を血清含有培地に懸濁して三次元培養に供し、形成された人工下垂体前葉の遺伝子発現量を定量PCRにより解析した。その結果、Tshbを除く下垂体ホルモン遺伝子は培養後に増加した。また、血管内皮細胞マーカーおよびペリサイトマーカー発現量も増加した。免疫細胞化学ではTSHβを除くホルモン陽性細胞、血管内皮細胞マーカーCD31およびペリサイトマーカーNG2陽性細胞が培養後に出現した。さらに、培養液中へのTGFβ2添加によってNG2陽性細胞の割合が顕著に増加した。以上のことから、下垂体幹細胞は多様な最終分化細胞を供給する細胞であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和5年度は下垂体幹細胞の接着・増殖におけるⅣ型コラーゲンの部分的な関与が示され、そのメカニズムの一端が明らかになった。また、令和6年度に実施する予定であった人工下垂体前葉の形成メカニズムの解明に向けた下垂体幹細胞の分化複能性の検証を前倒して実施し、下垂体幹細胞が下垂体前葉ホルモン産生細胞、血管内皮細胞およびペリサイトといった多様な最終分化細胞を供給する細胞であることを明らかにすることができた。そのため本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、下垂体幹細胞を特定の最終分化細胞に分化誘導する条件を調査し、下垂体前葉ホルモンおよび血管網を含む人工下垂体前葉の形成メカニズムを解明する。まず、血清代替物を使用して下垂体幹細胞から凝集体を形成させ、血清使用および血清代替物で作製した人工下垂体前葉の違いをDNAマイクロアレイ解析により選抜する。次に、血清で活性化されている特徴的なタンパク質(鍵分子)を遺伝子組換え技術により作製し、それらを凝集体に適用して培養する。そして、定量PCRおよび免疫蛍光分析により各種細胞へ分化したか確認し、分化に必須の鍵分子を同定する。
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