研究課題
本研究では、全ゲノム情報に基づく比較進化解析によってSilene属植物の系統進化における性表現の変遷を読み解き、性染色体と性決定因子の成立を定義することを目的としている。性の起源は両全性とされ、オスとメスの雌雄性が成立するまでに、両性とメス/オスの組み合わせから成る中間的な性表現があったと考えられている。ナデシコ科Silene属には、雌性両全性異株(両性とメス)と雌雄異株(オスとメス)の植物種が含まれており、Silene属植物種の系統樹そのものが「性の成立進化の縮図」と捉えられてきた。そこで本研究では、Silene属植物の雌性両全性異株シラタマソウ(Silene vulgaris)と雌雄異株ヒロハノマンテマ(Silene latifolia)の全ゲノム情報を染色体レベルで構築し、それぞれの種における分離後代や多様な自然系統群におけるリシークエンス解析から、GWAS解析およびkmerカタログ化解析を行い、雌雄性が成立する前段階(シラタマソウ)と成立後(ヒロハノマンテマ)の性染色体領域を特定した。さらに、性染色体領域におけるシンテニー解析や遺伝子の重複性・対応関係性を定義し、性と性染色体の成立過程について解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ナデシコ科Silene属のヒロハノマンテマ(Silene latifolia)のXY性染色体の解読に成功した。ゲノムシークエンスにはPacBio HiFiシークエンスとオプティカルマッピングをあわせることで、染色体の構造変化を検出するとともに、BUSCO 93.1%の完全性の高いゲノムデータを得ることができた。得られたY染色体のゲノムシークエンスは6つのスーパーコンティグで構成されており、これらを正確に配置するため、スーパーコンティグの末端領域にプローブを設計し、Fluorescence in situ hybridization(FISH)を用いて直接染色体上における位置関係を可視化することで正確なアンカリングを行なった。FISH法を行うにあたって、ゲノムシークエンスに供した植物を維持しながら染色体標本作成を可能にするため、花芽組織を用いたFISH法を確立した(Fujita et al. in preparation)。これらの手法によりY染色体(450 Mb)とX染色体(280 Mb)を解読することができ、本研究の基盤となるデータを得た。
ナデシコ科Silene属のシラタマソウ(Silene vulgaris)とのゲノム比較解析により、性染色体進化の指標となる性染色体の異形化、組換え抑制、性的二型性獲得進化について解析・考察する。また、Silene属植物に感染し花の性表現に影響を与える菌(ナデシコ科黒穂菌、Microbotryum lychnidis-dioicae)を用いて、性染色体に影響されない環境下における性表現と性的二型の相関を検証し、性染色体の成立と性の獲得進化の独立性・従属性を検証する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 2件)
BioRxiv
巻: - ページ: -
10.1101/2023.08.28.555088
10.1101/2023.09.21.558759