研究課題/領域番号 |
23KJ1634
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
対馬 拓海 広島大学, 先進理工系科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | ホウ素 / ルイス酸性 / 銅触媒 / ジボロン / ヒドロホウ素化反応 / カルボホウ素化反応 |
研究実績の概要 |
有機ホウ素化合物の合成手法開発は世界中で推進されている.特に,アルキンをホウ素と任意の求電子剤で二官能基化する銅触媒三成分連結ホウ素化反応開発は,最も盛んな研究領域の一つである.本研究は,制御因子が不明瞭であったアルキンへのボリル銅付加過程の本質的理解をAI活用により深め,従来法では達成困難な末端アルキンの内部選択的ホウ素化反応の開発を目的とする.令和5年度,以下の5つを中心に研究を推進した. 1.理論計算により化学的物性を数値化する手法であるAA(Ammonia Affinity)によってアミンやアミドで置換されたホウ素およびジオールで置換されたホウ素を含む幅広いホウ素ルイス酸性を評価した. 2.配位子の立体的な嵩高さを数値化する手法である%Vbur (Percent Buried Volume)を活用することで,ホウ素の立体的環境の評価手法を確立した. 3.アルコールをプロトン源とするヒドロホウ素化をモデルとした銅触媒ホウ素化反応の大量データの集積を行い,内部選択性を制御する因子の顕在化に着手した.これによりAAが内部選択性に最も影響力の大きいパラメータであることを明らかにした. 4.AAに着目したホウ素の検討により,B(mdan)が「アルキンへのボリル銅付加過程」を経る内部選択的ホウ素化に最適であることを明らかにした. 5.内部選択的ホウ素化反応において,銅触媒配位子の立体的嵩高さのチューニングも不可欠であり,%Vburを指標とし新奇触媒の合成し,B(mdan)をアルキンの内部炭素選択的に導入する新奇カルボホウ素化反応を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初,ホウ素ルイス酸性評価手法として採用していたFIA (Fluoride Ion Affinity)は構造が類似したホウ素のルイス酸性の比較のみの活用に留まっていた.ホウ素ルイス酸性算出をFIAから,より広範なホウ素に適用可能なホウ素ルイス酸性評価手法であるAAに置き換えることで,大量データの集積,分析が可能であることを突き止めた.また,当初の研究計画通り,モデル反応であるヒドロホウ素化のジボロン検討により大量データの集積を行った.データ解析によりAAの値が小さい,すなわち「ホウ素ルイス酸性の抑制」が重要であることを明らかにした.さらに「ホウ素部位の立体的環境」も内部選択性制御因子であることを新たに見出した.これにより入手容易なジボロンを用いてジオール置換ホウ素部位をアルキンの内部炭素に導入するヒドロホウ素化反応を達成した.一方,炭素-ホウ素結合と同時に炭素-炭素結合も形成できるカルボホウ素化はヒドロホウ素化と一線を画す高難度反応として知られており,デジタルデータを駆使し,内部選択的カルボホウ素化に適したB(mdan)に到達したことは意義深い.内部選択的ヒドロホウ素化,カルボホウ素化における制御因子の顕在化を高い完成度で達成できており,本研究はボリル銅付加を契機とする反応に広く展開している.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は,ボロン酸エステル類を中心としたホウ素のルイス酸性,立体的環境が銅触媒ホウ素化反応に及ぼす影響の理解を深め,新たな内部選択的ホウ素化反応を目指す.本研究成果によって,化学的物性のデジタルデータ化,反応開発手法の構築により,ホウ素化反応のみならず,他の高難度反応の開発が期待できる.重要素過程であるボリル銅の付加の理解が深まり,アルケンなど他の不飽和結合や,ケイ素・スズなどの類縁有機典型金属反応剤への展開を見据えたを反応開発手法創出を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は現在,ホウ素化反応の位置選択性と密接に相関する3つの制御因子を明らかにするためのデータ解析を中心的に行った.デジタル上での操作中心であったため,想定よりも実験消耗品等の支出が少なくなったため,次年度使用額が発生した. 2024年度は制御因子の調査結果を基にし,ホウ素のルイス酸性(FIA)や立体環境(%Vbur)の異なる試薬を用いて検討を行う.これらの条件検討数は膨大になると予想され,試薬,溶媒の購入はもちろん,ガラス器具,シリカゲル類,セプタム等消耗品,を多量に必要とする.また,得られた研究成果は公益性の高いものでありオープンアクセス論文への掲載などを想定している.
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