我々はこれまでの検討から、CKDモデルラットでは腸の亜鉛吸収低下と尿中亜鉛排泄増加による絶対的亜鉛欠乏と一部臓器に亜鉛が蓄積する相対的亜鉛欠乏が生じる可能性を見出している。本年度は絶対的亜鉛欠乏が生じるメカニズムについて、5/6腎臓摘出術によりCKDを誘発したラットを用いた検討を行った。 検討の結果、CKDラットにおける亜鉛吸収低下は小腸自体の亜鉛代謝変化によるものではなく、CKD下で増加する小腸管腔内の無機リン酸(Pi)が亜鉛の可溶性を低下させることで生じていることが示唆された。またこのPiによる亜鉛吸収低下は、リン吸着剤である炭酸ランタンの投与により改善した。さらにCKDラットに低リン食や炭酸ランタンを経口投与したところ、いずれも血漿亜鉛濃度は有意に上昇し、適切なリン管理は亜鉛欠乏の改善に有用であることが示された。また尿中亜鉛排泄増加のメカニズムについて、CKDラット腎臓において亜鉛の再吸収を担う輸送体Zip8のmRNAおよびタンパク質発現が低下することを見出した。エピゲノム修飾に関するデータベースChIP-Atlasを用いた解析から、Zip8遺伝子の近傍に腎障害によりクロマチンアクセシビリティが変化する配列も見出しており、今後は腎障害による輸送体発現低下機序について検討を進める。 従来、亜鉛欠乏に対しては亜鉛製剤や食品による亜鉛補充療法が標準的に行われているが、本研究成果はCKD病態下において複数のメカニズムが亜鉛欠乏の発症に関与することを示唆しており、従来の一律的な亜鉛補充慮法だけでなく亜鉛欠乏の原因に合わせた治療アプローチの必要性を示すものである。
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