研究実績の概要 |
1.量子リーマン幾何構造から定まる q-差分熱方程式の解を計算するため,その雛形として, SL(2,R)上の熱核の求積を,複数の手法で実施した.令和5年度には,多様体として SL(2,R)を対角作用の軌道の空間とみなす手法を新たに与えた.対角作用を用いる手法は,研究目的とする量子群における設定に対し,代数側で対応する操作があり応用可能である,という利点がある.本稿執筆時点で, SL(2,R)上の熱核ですでに得ていた他の結果と合わせ論文を準備している.
2.当該年度に実施を計画した,等質空間の q-変形として書ける量子群上の球関数を用いて q-差分熱方程式の解を構成し,量子リーマン幾何から定まる量とその解との関係を調べる研究について.本プロジェクトが研究計画でターゲットとしていた SL(n)より一般的なクラスである,標数が2ではない代数閉体上の連結簡約代数群に対し等質空間の座標環の q-変形を構成する論文が,海外の研究者により arXivで令和5年度に公開された.論文の著者にコンタクトをとり,対面・オンラインの両方で,例えば q-特殊関数の観点から得られた座標環の元を理解できないか,といういくつかの質問について議論した.本プロジェクトとの関連では,(1)の雛形において熱核の求積で球関数が果たした役割を q-差分熱方程式に応用することを目指すという点で,量子対称対の構造を利用し,等質空間の座標環の q-変形に支配ウェイトを用いたフィルトレーションを入れるこの論文の手法は,所望の球関数の候補を与え具体的に計算をすることを可能にするため重要である.
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