研究実績の概要 |
本研究では神経障害性アロディニアに重要な脊髄後角抑制性サブセットとグリア細胞との相互作用に着目し,触覚から痛覚への変換メカニズムを明らかにする。過去に同定した脊髄後角抑制性神経サブセット(NpyP神経)が神経損傷後に活動低下していたことから,そのメカニズム解明のためアストロサイトに着目し解析した。 AAVを用いて脊髄後角アストロサイト選択的に不活性型変異体のSTAT3を発現させたラットでは,神経損傷後のNpyP神経の活動低下(静止膜電位の低下および活動電位数の減少)が抑制され,アロディニア様行動が減弱した。また,正常ラットに恒常活性化型STAT3を脊髄後角アストロサイトに発現させると,NpyP神経の活動低下およびアロディニア様行動を誘発した。さらに,この変化に関わるアストロサイト由来因子としてマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)に注目し,AAVを用いたCRISPR-Cas9システムでMMP2を欠損させたところ,NpyP神経の機能が正常化し,アロディニア様行動が抑制されることを見いだした。加えて,触覚から痛覚への誤変換に重要なアストロサイトのサブセットとしてHes5Pアストロサイトを同定した(Sueto et al., J Pharmacol Sci., 2024)。 また,過去の結果(Tashima et al., PNAS, 2021; Ishibashi et al., Front Mol Neurosci, 2022)を踏まえ,NpyP神経とPdynP神経の関係性について解析した。NpyP神経を除去することにより生じるAβ線維由来アロディニアが,PdynP神経の同時除去により抑制されることを明らかにした。さらに,電気生理学的および免疫組織学的な解析にて,NpyP神経はPdynP神経へのAβ線維からの興奮性入力を抑制していることを明らかにした。
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