研究課題
本研究では、ヒト内分泌学において未だ解明されていない ①ヒト副腎皮質(特に束状・網状層)の形成メカニズムの解明、②萎縮した副腎皮質の病態、及びその再生の解明、また ③副腎皮質腫瘍の発生機構の解明を目的としている。副腎皮質組織の病理学的解析により、束状層様、網状層様の2層構造を呈する微小病変Steroids-producing nodule (SPN)を発見した。ゲノム解析によりSPNにコルチゾール産生腺腫(CPA)のドラーバー遺伝子でありPKA経路を亢進させるGNAS体細胞変異を同定した。空間トランスクリプトーム解析の結果、SPNの束状層様構造はWntシグナル経路に関連した腫瘍形成・増殖作用を有し、擬似的時間軸解析により副腎皮質からSPNの束状層様構造を経てCPAに進展することが推定された。一方、SPNの網状層様構造はマクロファージを主体とした免疫応答により抗腫瘍効果を有することが示され、この抗腫瘍効果の検証として副腎皮質癌(ACC)患者のTCGAデータを用いた検討では、網状層様構造を特徴付ける遺伝子群が高発現であるACC患者群は、低発現の患者群と比較し予後が良好であった。以上のことから、SPNの各層構造は副腎皮質腫瘍の形成において異なる機能的意義を有し、CPAはSPNを前駆病変として発生する可能性が推定された。また、過剰なコルチゾールによるACTHの低下のため束状・網状層が高度に萎縮したCPA付随副腎皮質内においても、SPNは2層構造を形成しており、ヒト副腎皮質の束状・網状層の維持機構は、ACTHシグナルの下流にあるPKA経路が制御していることが推定された。本研究成果は、前駆病変を経て生じるCPAの腫瘍発生機構と副腎皮質の維持・再生機構の解明に新たな知見を示すものである。
2: おおむね順調に進展している
副腎皮質組織の病理学的解析により、束状層様、網状層様の2層構造を呈する微小病変Steroids-producing nodule (SPN)を発見した。ゲノム解析によりSPNにコルチゾール産生腺腫(CPA)のドラーバー遺伝子でありPKA経路を亢進させるGNAS体細胞変異を同定した。空間トランスクリプトーム解析の結果、SPNの束状層様構造はWntシグナル経路に関連した腫瘍形成・増殖作用を有し、擬似的時間軸解析により副腎皮質からSPNの束状層様構造を経てCPAに進展することが推定された。過剰なコルチゾールによるACTHの低下のため束状・網状層が高度に萎縮したCPA付随副腎皮質内においても、SPNは2層構造を形成しており、ヒト副腎皮質の束状・網状層の維持機構は、ACTHシグナルの下流にあるPKA経路が制御していることが推定された。以上のように、2023年度では、SPNの発見と解析により、コルチゾール産生腺腫の発生機を解明し、また、副腎皮質層構造の形成機構の解明への手がかりを示した。今後、さらに、SPNからCPAへの進展過程、特にCPAへと進展する誘引についてを解明すること、また、細胞培養実験と動物実験により、副腎皮質層構造の形成機構の解明することを計画している。本研究成果は、2024年3月にEBioMedicineに掲載され、国内の3つ学会で報告した。その成果が認められ、第23回内分泌学会九州支部学術総会において優秀演題賞、日本臨床内分泌病理学会学術総会において、2023年度最優秀賞を受賞した。
臨床検体を用いた解析では、萎縮副腎皮質の病態の解明について進めていく。萎縮副腎の疾患モデルとして、コルチゾール産生腺腫に付随した萎縮副腎皮質を用いる。病理組織学的解析、空間トランスクリプトームを含めたトランスクリプトーム解析により、病態と把握、炎症の評価を行う。特に、副腎皮質における免疫細胞の働きは不明な点が多く、トランスクリプトーム解析と多重免疫染色が可能なphenocyclerの技術を用い、免疫細胞とその働きを解析する。また、multiple sumplingによるゲノム解析を行い、炎症に伴う遺伝子変異の蓄積を評価する。また、2023年度の研究結果をさらに深め、SPNからCPAへの進展過程、特にCPAへと進展する誘引についてを解明すること、また、細胞培養実験と動物実験により、副腎皮質層構造の形成機構の解明することを計画している。GNAS変異を副腎皮質に導入したマウスによる動物実験については、マウスの入手に時間を要したが、2024年4月に開始可能となり、今後実験を進めていく予定である。具体的には、副腎皮質特異的にGNAS変異を導入する。PKA経路の亢進により、束状層が肥大すること、また、本来成獣マウスには存在しない網状層様構造が形成されることを推定している。これらの解析により、GNAS変異による副腎皮質の変化を明らかにし、副腎皮質層構造の形成機構の解明を行う。培養実験においては、ヒト副腎皮質癌細胞株を用いて、実験を開始した。基礎検討終了後、GNAS機能亢進型変異の導入を計画している。
2023年度は、受入機関の研究スタートプログラムに採用され、50万円の助成金を得たため、予定していた特別研究員奨励費の使用計画より、奨励費の使用額が小さくなった。2024年度は、研究遂行のため、シングルセル解析や空間トランスクリプトーム解析、多重免疫染色解析を予定しており、2023年度の残額と2024年度使用予定額が必要である。
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EBioMedicine
巻: 29 ページ: 105087
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