植物は、変動する光環境に適応しつつ、効率的に光合成を行うために、葉緑体の細胞内局在を変化させる(葉緑体光定位運動)。葉緑体は弱光の下で光に集まり(集合反応)、強光の下では光を避けるように細胞の縁に移動する(逃避反応)。モデル植物を用いた解析に葉緑体光定位運動は光受容体であるフォトトロピンの自己リン酸化に始まるリン酸化カスケードにより引き起こされることが分かっている。一方で、受入れ研究機関において、120種を超える植物種の解析がなされたところ、葉緑体光定位運動にはCO2が必要であることが示唆された。シロイヌナズナを用いた実験においても、低CO2条件においては集合反応が抑制されることが示された。つまり、CO2による制限がフォトトロピンにより誘導される反応よりも優先されることを見いだした。さらに、フォトトロピンを用いた免疫沈降物のプロテオーム解析により、炭酸ガスの関与が考えられる因子を同定した。これら因子について、単独変異体を単離し、さらには多重変異体を作成した。それら変異体を解析したところ、多重変異体ではより強く葉緑体光定位運動が抑制されていることが分かった。これらの結果は、CO2シグナルと光シグナルは相互に関与しつつも従属的なものではないとされてきた従来の知見とは一線を画すものであり、光シグナルがCO2シグナルの制御下にあることを示している。
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