研究課題/領域番号 |
23KJ1760
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
福田 美津紀 長崎大学, 高度感染症研究センター, 研究員
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 神経向性ウイルス / 血液脳関門透過性分子 |
研究実績の概要 |
神経向性ウイルス性脳炎に対する治療法開発を行う上で特にダニ媒介性脳炎ウイルス (TBEV)を標的として下記の研究を行った。 1. BBB透過性分子であるRVGペプチドを利用した抗ウイルス分子の作製 組換え抗体型:遺伝子組換え技術により、TBEVに中和能を示すモノクローナル抗体、及びそれに由来する一本鎖抗体を作製した。さらに、各抗体にRVGを付加した組換え抗体-RVGを作製した。siRNA型:TBEVの増殖抑制に対して有効なsiRNA配列の検討・作製を行った。6種類のsiRNAを作製しTBEV感染細胞に導入したところ、2種類のsiRNAでウイルス増殖抑制効果がみられた。これらsiRNAについて、RVG配列を持つペプチドと結合させた (siRNA-RVG)。 2.in vitroにおける抗ウイルス作用に関する検討 組換え抗体型:RVGの受容体であるアセチルコリン受容体発現細胞を用いた蛍光抗体法により組換え抗体-RVGの受容体への結合性が認められた。ELISA及び感染性ウイルスを用いた中和試験により、組換え抗体がウイルス粒子への結合能及びウイルス中和能を有することが示された。組換え抗体へのRVGの付加による、これら結合能及び中和能への影響は認められなかった。BBB in vitro再構成系を用いてBBB透過性を評価したところ、組換え抗体-RVGの透過効率はRVG未付加組換え抗体と比較して有意に高い結果となった。 siRNA型:アセチルコリン受容体発現細胞に蛍光標識siRNA-RVGを添加したところ、siRNAの細胞内への取込みが認められた。siRNA-RVGを受容体発現細胞に添加後、TBEVを感染させたところ、細胞内でのウイルス増殖が抑制された。以上の結果より、組換え抗体-RVG及びsiRNA-RVGのTBE治療薬としての有効性が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗TBEV分子-RVGの複合体を作製することに成功し、当初の1年目の計画通り、in vitroでのこれら抗ウイルス分子の性状解析をほぼ完了させることができたため。組換え抗体については、二本鎖抗体に加え、分子量の小さい一本鎖抗体(scFv)の作製にも成功した。また、in vitroでの抗ウイルス分子-RVGのBBB透過性を評価するためにBBB in vitro再構成系の実験の立ち上げにも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
1. TBEV非感染マウスにおける抗ウイルス分子-RVGの脳内移行性の検証 抗ウイルス分子-RVGをマウスに末梢投与後、脳を採材し、脳中の抗体量をELISAにより解析する。 2. TBEV感染マウスにおける抗ウイルス分子-RVGの治療効果を死亡率、神経症状発症率、脳中のウイルス力価、病理組織学的所見の点から解析する。また、抗ウイルス分子の投与経路、投与時期及び投与回数が上記項目に与える影響を解析する。 3. 抗ウイルス分子-RVGの改良による治療効果の改善に関する検証 ヒトへの臨床応用を考慮し、組換え抗体の配列のヒト化を行うことで、ヒトに投与した場合の免疫応答の抑制を図る。また、siRNAのメチル化等、化学修飾の付加やsiRNAの脂質ナノ粒子への組み込みにより、酵素分解に対する抵抗性を付与し安定性の向上を図る。さらに、RVG-組換え抗体やsiRNA、その他抗ウイルス低分子化合物を組み合わせたRVG複合体を作製し、治療効果の向上や必要投与量の削減を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
より安価な試薬で実験を代替できたため、次年度使用額が生じた。繰り越した経費については、次年度に費用のかかるin vivoでの実験を予定しており、その試薬及び動物実験に必要な物品購入のために使用予定である。
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