研究課題/領域番号 |
23KJ1769
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
當眞 嗣雅 熊本大学, 薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎(NASH) / 肝線維化 / 脂肪肝 / 肝星細胞 / TGF-b |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝臓に中性脂肪が蓄積することにより臓器が炎症、線維化する進行性肝疾患で、最終的には肝硬変や肝細胞癌へと進展し得る。NASH治療には、食事・運動療法による生活習慣の改善が推奨され、併存する生活習慣病に対して薬物療法が用いられるが、未だ有効な治療薬は開発されていない。本研究課題では、申請者らが先に見いだした抗線維化剤HPH-15の標的蛋白質の同定と肝線維化抑制機構の解明を行い、NASH病態進行に包括的に作用することが可能な新規NASH治療薬を開発する。 本年度は、肝線維化の責任細胞である肝星細胞に対するHPH-15の線維化抑制効果の解析ならびに標的蛋白質の同定を行った。線維化マーカー(Collagen1A1, α-SMA, Fibronectin)の発現量をウエスタンブロット・定量的PCRで測定し、HPH-15による線維化抑制効果を調べた。その結果、HPH-15(10 μM)処理による肝星細胞における線維化マーカーの発現減少がみられ、TGF-β添加により誘導される肝線維化を優位に改善できることが示唆された。HPH-15に結合する標的蛋白質を解析するため、ビオチン-アビジン相互作用を用いた結合実験を実施した。具体的には、HPH-15にリンカーを介してビオチンを結合したビオチン化HPH-15を細胞抽出液と混合し標的蛋白質Xを同定した。次にHPH-15の肝線維化抑制機構を明らかにするため、標的蛋白質XをsiRNAにより発現抑制した肝星細胞にHPH-15を添加した際の、線維化マーカーの発現量を評価した。発現抑制細胞では、HPH-15によるCollagen1A1の発現減少は維持されていたが、α-SMA, Fibronectinの発現減少は阻害された。これらの結果は、HPH-15の標的蛋白質ならびに肝線維化抑制機構を部分的に解明したことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、HPH-15の標的蛋白質ならびに肝線維化抑制機構を部分的に明らかにした。しかしながら、本年度に同定した標的蛋白質Xは、肝線維化病態進行に重要なCollagen産生には関与していないことが示されている。そのため、当研究では反応性リンカーを用いた新たなビオチン化HPH-15を合成し、Collagen産生に関与する標的蛋白質解析に引き続き取り組んでいる。また、次年度に実施予定であるNASHモデルマウスを用いた、HPH-15の肝線維化改善効果の検討の準備を行った。NASHモデルマウスには、CDAHFD(コリン欠乏アミノ酸制限高脂肪食)給餌マウスを使用する。C57BL/6JマウスにCDAHFD給餌0, 1, 3, 6, 9週後、血液および肝臓を回収し、肝線維化の病態進行を検討した。その結果、CDAHFD給餌による経時的な肝線維化の進行が観察され、本モデルマウスがヒトのNASH病態を再現していることが示唆された。これらの結果から、申請者は次年度の研究計画に含まれるモデルマウス実験の円滑な遂行が可能であり、引き続きNASH病態進行に包括的に作用することが可能な新規NASH治療薬の開発を行う。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、HPH-15に反応性リンカーを介してビオチンを結合させた新規ビオチン化HPH-15を用いて細胞破砕液やプロテインアレイからの標的蛋白質の捕捉同定を試みる。同定した標的蛋白質が肝線維化に及ぼす影響を、生化学的手法により明らかにすることで、HPH-15の肝線維化抑制機構の解明に引き続き取り組む。さらに、CDAHFD給餌マウスを用い、HPH-15の肝線維化に対する治療効果を検討する。
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