研究課題/領域番号 |
23KJ1853
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
吉原 晶子 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 膜脂質 / 光合成 / リン脂質 / 酸性脂質 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
本研究では、植物が光合成を始めるまでの過程における葉緑体リン脂質PGの役割や、PGと同じく酸性脂質であるSQDGの役割、さらにPGとSQDGの機能的関係性について明らかにすることを目的とする。本年度は特に、植物が光合成を始めるまでの光合成関連遺伝子の発現上昇におけるPGやSQDGの重要性および機能的関係性を中心に調べた。具体的には、シロイヌナズナのPG合成酵素の活性低下によりPG含量がわずかに減少したpgp1-1変異体、SQDG合成酵素の欠損によりSQDGを完全に欠損したsqd1変異体、およびsqd1 pgp1-1二重変異体を用いて、定量的RT-PCR法により光合成関連遺伝子の発現解析を行った。その結果、pgp1-1やsqd1単独変異体では、野生株同様に光合成関連遺伝子の発現が上昇したが、sqd1 pgp1-1二重変異体では強く抑制された。したがって、光合成を始めるまでの光合成関連遺伝子の発現は、PGのわずかな減少またはSQDGの完全欠損では影響を受けないが、それらが合併すると極めて強く抑制されることが明らかとなり、光合成関連遺伝子の発現においてPGとSQDGが機能的に相補することが示唆された。葉緑体チラコイド膜の脂質総量に占めるPGとSQDGの合計量は約20%にすぎないが、これらの酸性脂質の総量の維持が光合成を開始するための遺伝子発現に極めて重要であることが見出された。 次に、光合成電子伝達反応の開始のタイミングや、その間のクロロフィル蓄積への影響について解析したところ、pgp1-1では光合成電子伝達反応の開始が遅くなり、クロロフィル蓄積が低下していた。光合成電子伝達に関わるタンパク質やクロロフィル合成系の酵素をコードする遺伝子の発現は、pgp1-1において抑制されていなかったことから、転写発現よりも下流のタンパク質の蓄積や機能にPGが必要である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、植物が光合成を開始するために必要な遺伝子発現に、PGとSQDGの総量の維持が極めて重要であることを明らかにすることができ、年度目標を概ね達成できた。さらに、遺伝子発現以外の解析も進めることで、光合成電子伝達反応の開始やその間のクロロフィル蓄積にPGが必要であることを見出せた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)PGのわずかな減少による光合成電子伝達反応の開始への影響について、予備実験では開始が速くなる傾向が見られていたが、本年度の解析では遅くなる傾向がみられた。今後さらに、パルス振幅変調クロロフィル蛍光法の感度を向上させて再度解析することで、光合成電子伝達反応の開始へのPGの関与について明らかにする。また、このときの電子伝達複合体の状態を調べるために、単離チラコイド膜の低温蛍光スペクトル解析や、非変性タンパク質電気泳動法による複合体解析を行う。 (2)PGのわずかな減少によるクロロフィルの蓄積低下の原因について着目し、クロロフィル合成におけるPGの機能の解明を目指す。先行研究にて、PGがクロロフィル合成経路の酵素の一つであるMgキラターゼの活性に必要である可能性が示唆されたため、再構成したMgキラターゼを用いて検証する。
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