研究課題/領域番号 |
23KJ1866
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
熊谷 真一 自治医科大学, 医学(系), 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
キーワード | 迷走神経刺激療法 / 聴覚野 / 情報流 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、迷走神経刺激療法 (Vagus nerve stimulation: VNS) が老化知覚ネットワークに与える影響を明らかにすることである。まず、VNSが若年ラットの感覚情報処理に対して及ぼす効果について検証した。VNSがラット聴覚野において、アセチルコリンやノルアドレナリンを介して低次から高次領域へのフィードフォワード (FF) 経路と高次から低次領域へのフィードバック (FB) 経路の情報伝達を担う神経活動のバランスを調整することを示し、VNSの作用機序の一端を明らかにした (Kumagai et al., Brain Stimul. 2023)。本研究では、聴覚刺激によって誘発された皮質オシレーション活動からFF及びFB経路の活性化について定量化した。特に、アセチルコリンを介したガンマパワーの増強はFF経路の情報処理の向上を示唆しており、VNSが知覚ネットワークに及ぼす効果についての基礎的知見になると考えられる。続いて、知覚ネットワーク内における双方向性の情報流に対するVNSの効果を検証するため、情報理論に基づいた指標である移送エントロピーを用いて低次-高次聴覚野間の情報流を定量化した。音刺激提示中、VNSによる情報流のバランスの変化が認められた。また、ラット島皮質の神経活動計測系を確立し、VNSが聴覚野だけでなく島皮質の音誘発オンセット反応を亢進させることを明らかにした。島皮質は、聴覚野と同様に視床から上行性投射を受けているため、VNSによるFF経路の活性化を反映していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高齢ラットを用いた実験に一部遅延が生じている。一方で、VNSが若年ラットの知覚ネットワークに与える効果について複数の解析手法から検証した。これらの解析手法は次年度の実験に応用可能であることから、遅延はあるが、全体としては進展があったと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
若年ラットと高齢ラットを対象として知覚ネットワークにおける情報流を比較し、老化ネットワークを明らかにするとともに、高齢ラットに対してVNSの刺激を行い、VNSが老化ネットワークを変調させることを示す。また、ガンマ帯域の神経活動と関連のある皮質ニューロンやグリアを可視化し、老化またはVNSによる組織学的変化を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験結果を論文にまとめることを優先し、海外での学会発表を行わなかったため、予定よりも少ない使用額となった。引き続きデータの取得及び解析を進展させ、次年度には得られた成果について発表する予定である。
|