研究課題/領域番号 |
23KJ1881
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
甘利 悠貴 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | スキルミオン / トポロジカルソリトン / スピン液晶 / ドメインウォール |
研究実績の概要 |
大きな自由度をもつ磁性体・冷却原子系において,新奇なスキルミオンやスキルミオンの派生物を理論的に見出した.スピン軌道相互作用を含んだ3成分スピノール・ボーズハバード模型を考え,その低エネルギー有効模型を導出した.ここで,3成分スピノール・ボーズハバード模型は光格子中の極低温6Li原子などを記述する模型である.その有効模型の基底状態を数値的に探索した結果,CP^2スキルミオン格子やCP^2メロン格子,CP^2スキルミオニウム格子という新奇な状態が系の基底状態として現れることがわかった.接頭語”CP^2”は,有効模型の秩序変数空間を表している.(磁気スキルミオンが従来議論されてきた古典スピン系やスピン1/2の系がもつ秩序変数空間は,CP^1と呼ばれる.) それらの配位では,磁気秩序がないにも関わらずスピン空間の回転対称性が破れた状態,すなわちスピン液晶状態が局所的に実現されている. 加えて,磁壁に閉じ込められたスキルミオン,すなわちドメインウォール・スキルミオンの解析も行った.ドメインウォール・スキルミオンは,スキルミオンの工業的応用への障害の一つであるスキルミオン・ホール効果の影響を受けないため,工業的応用が期待されている.ドメインウォール・スキルミオンを磁性体のミクロな模型に対する数値解析と磁壁上の有効場の理論における解析的・数値的手法を用いて構成した.面外の容易軸異方性がある系では,スキルミオンを閉じ込めた磁壁は曲がり,突起を形成する.また、カイラルソリトン相ではドメインウォール・スキルミオンは不安定で,メロン対に崩壊することを数値的に示した.一方、面内の容易軸異方性がある系では,スキルミオンを閉じ込めた磁壁は真っ直ぐであり,あるパラメータ領域ではスキルミオンを閉じ込めた磁壁の方が単なる磁壁よりエネルギーが低くなることを発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に予定していたSU(3)カイラル強磁性体の基底状態の探索をおおむね完了することができた.SU(3)カイラル強磁性体が予想していたよりも多彩な相構造を持つことがわかり,解析に時間がかかってしまったため論文執筆までは至れなかったが,おおむね順調に研究が進展している.さらに,当初予定していなかったドメインウォール・スキルミオンの研究でも,非自明な結果を出すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは,強磁性的なSU(N)カイラル磁性体の基底状態として現れるテクスチャーの研究を行ってきた.今後は,反強磁性的なSU(N)カイラル磁性体に現れるテクスチャーの研究を行う.まずスピン軌道相互作用を含んだSU(N) Hubbard模型を考え,その低エネルギー有効理論を導出する.その有効理論の基底状態として,2次元三角格子では,3副格子構造をもち,各副格子上で異なる性質をもつスキルミオン格子が形成されると予想される.加えて,3次元正方格子では,モノポールやスキルミオンストリング,結び目ソリトンが現れることがホモトピーの観点から予想される.どのような種類の3次元ソリトンが、どのような磁気異方性や結合定数の下で現れるかを調べる. SU(N)磁性体におけるテクスチャーの研究に加えて,ドメインウォール・スキルミオンのダイナミクスも研究する.ダイナミクスの研究は,工業的応用に向けては欠かせないものである.まず,電流によるドメインウォール・スキルミオンの駆動を考える.このとき,電流の向きや大きさによるドメインウォール・スキルミオンの反応の違いを詳細に調べる.また,直流電流以外にも磁場勾配や交流電流をかけたときのドメインウォール・スキルミオンのダイナミクスも工業的応用に向けた重要な問題であるため,時間が許せばこれらにも取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者が在籍するドイツ・Hanse-Wissenschaftskolleg Institute for Advanced Studyに滞在して研究を行う予定であったが,お互いの都合が合わず,その予定が持ち越された.繰り越された研究費は,その持ち越された海外出張に使用する予定である.
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