研究課題/領域番号 |
23KJ1999
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
藤森 友太 明治大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
キーワード | 寄生虫学 / 共寄生 / 共感染 / 線虫 / ヤスデ / 棲み分け |
研究実績の概要 |
寄生者は1個体の宿主を独占できるとは限らない。多くの場合、他の寄生者と宿主を共有する「共寄生」を行い、それに伴って寄生者間の相互関係が築かれる。このように、他の寄生者との協力、あるいは競合といった関係性は寄生者の多様化を駆動する要因として非常に重要である。 八重山諸島に分布するサダエミナミヤスデには、少なくとも3種の線虫が共寄生している。線虫は空間的な棲み分けを行っており、寄生者同士は競合関係にあると推測している。また宿主の累代飼育系を通じて線虫の感染経路を調べたところ、サダエミナミヤスデは卵を糞で覆い(卵糞と呼称)、孵化した幼虫が卵糞を食い破って脱出する際に感染する可能性が示唆された。その理由として、卵糞を取り外し、煮沸滅菌後に人為的に卵を覆い人工卵糞を作って孵化させると線虫の感染が見られなかったことが挙げられる。そこで卵糞に含まれている感染態線虫をヤスデに接種し、人為的に共寄生を制御することで寄生者間の相互関係を実験下で解明できると考えた。 遂行上の課題として、ヤスデは移動性に乏しく寄生者にも地理的な影響が大きいと考えられるにも関わらず、これまでの研究計画は石垣島の野底林道から得た個体群に限定されてきた。そこで今年度は石垣島・西表島の島内において広範にヤスデを採集し、線虫相を精査した。その結果、Rhigonema属の線虫は2種含まれており、その2種が共寄生していることが明らかとなった。これは同属に含まれるほど近縁な種が同所的種分化を遂げた可能性を示唆しており、寄生者間の相互関係が多様化の重要な要因であることを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Rhigonema属が2種含まれていたことで「なぜ同属に含まれるほど近縁な種が同じ宿主に共寄生しているのか?」という疑問が生まれた。可能性として考えられるのは①別のヤスデに寄生していた別種のRhigonemaがサダエを宿主対象とした②宿主体内で同所的種分化が起きたの2つである。①を検証するためにはサダエミナミヤスデと混棲するヤスデを網羅的に採集・解剖する必要がある。これについては既に進めており、同所的に生息するヤットコアマビコヤスデ、ヤエヤママルヤスデからRhigonema属線虫を得ており現在同種かどうかを調べている。①の場合、寄生虫は宿主範囲を拡大することで新たな寄生者と出会うということを裏付ける。Rhigonema2種の競合や他の寄生者との関係性を調査することで、宿主範囲の拡大は単純な寄生者の多様化要因ではなく、新たに獲得される寄生者同士の相互関係を考慮して研究を進めることができる。②の場合、共寄生が多様化を駆動する要因としての重要性を支持する結果となる。総じて、Rhigonema属が2種含まれていることが判明したことによって研究の方向性が具体性を帯び、特にクローズアップして相互関係を探るべき種を絞り込むことができた。 これは予想外の成果であり、副次的な成果として別種のヤスデを解剖したことを通して新たなヤスデ寄生性線虫を発見することに繋がった。また八重山諸島のヤスデを調べていくなかで、特にBrumptaemilius属の線虫は現段階ではサダエミナミヤスデに限定して寄生している。このことからサダエミナミヤスデにおける寄生者間の相互関係の特異性をさらに強調する結果となり、同時にBrumptaemilius属線虫の特徴を明らかにすることができた。総じて、予想外の進展を得られたため当初の計画以上の進展が見られている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の展望として、Rhigonema属2種について系統関係を把握するためサンプル数を増やす必要がある。18SrDNA/28SrDNA/COⅠ領域を用いてそれぞれの領域について系統解析を行う。また形態学的な比較を並行して行う。これらのデータは記載に使用可能なため、分類学的な記載を通じて副次的な成果として発表予定である。またヤスデ腸内での線虫の分布についても、別途論文として投稿予定である。 同時に八重山諸島におけるヤスデの網羅的な調査を通じて、サダエミナミヤスデと生息環境が同じヤットコアマビコヤスデを解剖したところ、サダエミナミヤスデでは幽門弁に局在しているRhigonema属が後腸にまで進出する傾向にあることに気づいた。Brumptaemilius属が見られないことでRhigonema属は腸内における分布を拡大することに成功したのではないか?と考え、2属間の関係性は非常に興味深いものと考えている。そこでBrumptaemilius属とRhigonema属の競合について更に掘り下げる予定である。 またサダエミナミヤスデとは異なり樹幹性であるものの、系統的に近縁なヤエヤママルヤスデを解剖したところ、前に挙げた2種のヤスデと異なりThelastoma属の線虫が後腸部に多く、Rhigonema属の線虫は幽門弁に局在が見られた。これは予備試験として解剖した台湾産のヤエヤママルヤスデの近縁種Spirobolus formosaeでも見られた傾向であり、Thelastomaが後腸部で優占するヤスデについてもRhigonema属が局在を示す傾向が見られた。以上の観点から台湾を調査の視野に含め、台湾産のサダエミナミヤスデと併せて線虫相の比較を行うことで関係性の予測を強固なものとしたうえで室内実験を遂行する見通しである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
石垣島と西表島における野外調査を通じで、当初では予測していなかった方向から研究を進展させる成果が得られた。すなわちRhigonema属の線虫が2種含まれており寄生者の同所的種分化もしくは宿主範囲の拡大に伴う新たな寄生者間相互関係の獲得である。そこでこの検証について野外調査に基づいて解剖、標本の作製、系統解析に着手した結果、Rhigonema属の分類学的な見解を確定させたのちに研究計画を遂行することが合理的であると考えた。 これを達成しない場合の大きな課題として「寄生者の多様化を研究しているにもかかわらず種間のネットワークを調査できていない」という問題が想定されるためである。同時にRhigonema間の種間相互関係を把握することができれば、近縁な寄生者同士が如何にして種分化を遂げたのかという大きな問いを解明することに繋がるため、課題の解決と研究の進展に大きな展望が期待できる。 そこで今年度に使う予定の予算を次年度に回し、今年度はRhigonema属の分類学的な整理に必要な情報を蓄積することとした。以上の背景が次年度使用額が生じた理由であり、想定外の進展によって生じたものである。研究の遂行に年度単位で律速されない予算の使い方は節約的であり重要なものであることを裏付ける。
|