研究課題/領域番号 |
23KJ2012
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
畔柳 千明 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | シベリア県知事 / 中国福音報 / 北京ロシア人居留地 / 神西清 / ロシア連邦国立文書館 / チェコ国立図書館 |
研究実績の概要 |
①史料集『18世紀の露中関係Русско-китайские отношения в XVIII веке』第1巻および『清代中俄関係档案史料選編』『故宮俄文史料』から、1706~1719年について初代シベリア県知事ガガーリン関連文書計86件を抽出した。清朝側に対する、ガガーリンのロシア側の窓口としての役割について検討を試みた。 ②ロシア語雑誌『中国福音報Китайский благовестник』を調査した。当該雑誌は北京ロシア人居留地で正教会関係者を中心に1904~1947年頃に発行され、中国のロシア関係者の活動、思想の有力な情報源の一つである。報告者はチェコ国立図書館附属スラヴ図書館に所蔵号の写真データ作成を依頼した。このデータに基づき、従来知られていなかった1921-1934年、1939年の記事目録を作成した。 2024年3月、同館を直接訪問し周辺資料を収集した。一つの事件でも中国(『俄文霞報Наша заря』(天津)等)とヨーロッパ(在外シノド機関誌『教会生活Церковная жизнь』)は報道内容が異なり、中国独自のロシア語情報網が構築されていたことがうかがえた。 ③日本人の中国旅行記の調査を実施し、ロシアに触れたものを抽出した。調査では、国会図書館のNDLサーチなど各種検索サイト、東洋文庫『明治以降日本人の中国旅行記』を活用した。神西清「白樺のある風景」(1947)のように、占領者としての視点から、中露に独自の洞察を示す作品が見られた。 ④2019年にロシア連邦国立文書館ニコライ・イグナチエフ個人文書(フォンド730番)から収集した外交史料について、その他のロシア語・中国語公刊史料と対比しながら分析した。1861年以降につき、先行研究(Quested, The Expansion of Russia…等)で十分に着目されてこなかった外政機構の変化が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
報告者は本研究を、次の3点について明らかにするため構想した。①シベリア分離主義と中国の関係/②ガガーリンの権力の根拠としての中国貿易、両者の接点としての教会/③対清外交における中央・地方関係の、ガガーリン前後での変化、である。 2023年度に実施した研究では、新たな研究課題を発見したものの、研究の進捗は予定よりやや遅れている。 遅れの理由としては次の点が挙げられる。第一に、『中国福音報』等、中国で発行されていたロシア語刊行物の調査から、シベリアについても情報が得られるものと考えていたがシベリアへの言及は少なく、期待した成果を得られなかった。また教会雑誌である『中国福音報』の記事は教会の内部事情を詳細に明らかにする一方、同時代の事件への反応は直接的に書かれないことが殆どで、分析に時間を要した。第二に『18世紀の露中関係』第1巻として出版されている史料を分析し、『故宮俄文史料』、『中俄関係档案史料選編』を一部取り上げた(分析中)が、今のところ重要な新たな知見は得られていない。一因は、これらの史料集において、本研究課題に直接関係する史料が限られるためである。 一方で『中国福音報』と周辺資料の分析を通じて、新たな発見もあった。ソ連成立後、極東の正教会と本国教会との関係は断絶した。中ソ関係の成立という歴史的背景のもと、極東の正教会の位置づけ、とりわけ帝政期から継承された、北京ロシア人居留地の不動産の帰属の問題は、教会内部にとどまらず、政治問題化した様子が観察された。個別の事実が明らかになった一方で、18世紀に発生した北京の教会における土地不動産の権利問題が、20世紀にいたるまでどう変奏され、どう継続されたかという新たな疑問も生じた。 研究の進捗はやや遅れているものの、今後の発展の見通しや位置づけについて、一定の展開はあったことから、全体の評価は、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2024年度「研究実施計画」に示した通り、主に「研究の目的」②について、シベリア県知事ガガーリンのシベリア社会における権力の根拠を分析することを目的に、18世紀初頭のシベリアの正教会、ガガーリン、商人の関係を検討する。文書を送受信者別に分類し、それぞれの関係を分析する。2024年度は、上記の史料集『18世紀の露中関係』第1巻、『故宮俄文史料』、『中俄関係档案史料選編』に加えて、ロシア語史料集『東シベリア教会古文書集Древние церковные грамоты』、また中国語史料集(2023年出版)『中俄関係歴史档案文件集』を入手して、分析対象に加えることで、取り扱うデータの分量を増やし、文書のやりとりから実態に迫っていきたい。さらに、必要に応じて前後の17~19世紀の同種の史料を参照することとする。前後の時代の状況と比較することで、18世紀初頭の時期的特徴についても明らかにすることができると思われる。 なお、交付申請書においては、3年の研究期間に「研究の目的」①~③をそれぞれ割り振る形式で記載していたが、必要な作業が重複していることから、2024年度以降は①~③を並行する形で進めたいと考えている。 また研究計画を変更し、上記の『中国福音報』分析から明らかになった北京のロシア人関連土地権利問題についても、調査を継続する。このテーマについては、2023年度にチェコ国立図書館で収集した1920~1930年代のロシア語新聞・雑誌記事の整理を引き続き行うとともに、新たに中国語史料を利用することで、事件の推移をより多面的に把握していく必要があると思われる。まず2024年度は中央研究院近代史研究所の検索システムなど、デジタルアーカイヴを活用しながら、中国語史料の所在、概要を把握することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
特別研究員奨励費(雇用PD分)学術条件整備の次年度使用分
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