研究実績の概要 |
時間知覚における潜在的な視覚処理の役割を検討するために当年度は主に,視覚情報の潜在的な新奇性が知覚時間に及ぼす影響を,時間的オッドボールパラダイムを用いて検討した。これまでの研究で,系列中に呈示される新奇な刺激(オッドボール)の持続時間が,先行して反復された刺激(標準刺激)の持続時間よりも長く感じられること(時間的オッドボール効果)が知られている。本研究では,顔の局所的な反転が倒立時に検出しにくくなるサッチャー錯視を用いて,オッドボールの新奇性が知覚的に顕著な場合とそうでない場合で時間的オッドボール効果に違いが生じるかを検討した。(Sarodo, Yamamoto, & Watanabe., 2024; Vision Research)。その結果,正常顔を標準刺激,サッチャー顔をオッドボールとして呈示した場合,顔が正立で呈示された場合にのみ時間的オッドボール効果が生じることが明らかとなった。一方で,サッチャー顔を標準刺激,正常顔をオッドボールとして呈示した場合には,方位条件間で効果の差は認められなかった。統制実験の結果から,成立条件でのオッドボール効果の生起には,正常顔の反復呈示が重要であることが示唆された。これらの結果は,標準刺激の反復によって生じる予測とオッドボールの間の知覚的な誤差が,時間的オッドボール効果に影響することを示唆しており,予測符号化のようなメカニズムが関与している可能性が考えられる。
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