研究課題/領域番号 |
23KJ2057
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
松田 亮 創価大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 南大洋季節海氷域 / Gyrodinium / qPCR / 培養 |
研究実績の概要 |
南大洋に生息している動物プランクトン糞粒に形態が似たGyrodinium rubrumとG. heterogrammumの炭素循環における役割の解明を目指し、1) 摂餌特性の解明を目指した培養系の確立と2) 海氷融解期における時空間的変動の調査を遂行した。 令和4年度において東京海洋大学練習船「海鷹丸」南極地域観測航海に参加し、南大洋季節海氷域の定点観測において採取されるプランクトンネット試料、表層海水、浮氷から単離培養を試みた。船上でプランクトンネット試料および浮氷からは形態情報が合致する細胞は観察されなかった。一方、表層および亜表層海水からはGyrodinium spp.の細胞が観察された。それらの細胞を低温培養槽内で予備培養し、生きた細胞を日本に持ち帰ることに成功した。帰国後、培地条件の検討を行ったが、安定的に継代培養することは出来ず、単離には至らなかったが、低光量および撹拌の有無が重要であることが示唆された。 qPCRによる環境試料中のGyrodinium属2種の定量手法を確立し、2019年度から2022年度の南大洋航海で採取された海氷および海水試料における現存量と分布を調べた。その結果、G. rubrumは海氷移流で広域に分布し、融解によって水柱に放出されていることが示唆された。一方、G. heterogrammumは沿岸の限られた海域のみで検出され、G. rubrumとは分布が異なることが示された。また漂流系と係留系に装着した沈降粒子トラップによって捕集されたサンプルの解析結果から、深度60 mではG. rubrumが、150 mではG. heterogrammumが優占し、500 mでは2種ともに同程度のフラックスを示すことが明らかとなった。以上の結果から、G. rubrumは海氷融解に連動して表層の基礎生産を亜表層へ輸送し、G. heterogrammumは亜表層に輸送された基礎生産をより深い層に輸送することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gyrodinium属渦鞭毛虫を生きた状態で日本に持ち帰ることに成功し、安定的な培養に必要な条件(低光量および攪拌の有無)を絞ることができた。現在は得られた知見を参考にしながら、令和5年度の試料から安定的な培養系の確立を試みている。またqPCRおよび顕微鏡解析を駆使した定量分析は順調に進んでおり、過去3回の南大洋航海で得られた試料から東南極におけるGyrodinium属2種の現存量と出現海域を確認することができた。以上のことから順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は1) 海氷融解期における現存量と分布を把握した論文の公表、2) 令和5年度の「海鷹丸」南極地域観測航海の表層海水試料からGyrodiniumの培養、3) 固定試料からソートした細胞の内容物DNAの解析、4) 細胞内の珪藻殻の観察、5) 透過型電子顕微鏡観察を実施する。今年度でGyrodinium属渦鞭毛虫の培養が成功するとは限らないため、4)と5)の実験を研究計画を加えることで顕微鏡とDNA解析の2つのアプローチから摂餌内容物に関する詳細なデータが得られると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA解析委託の計画を翌年度に変更し、qPCRに係る消耗品の購入に物品費を充てたため、次年度使用額(B-A)が生じた。本年度に予定していた助成金はDNA解析委託費用および透過型電子顕微鏡解析委託費用に充て、次年度使用額(B-A)はそれらに係る消耗品の購入に割り当てる。
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