サンゴ礁は全海域の0.2%程度を占めるに過ぎないが、そこには全海洋生物種の約30%が生息すると見積もられている。しかし、地球温暖化などの気候変動によってサンゴ礁は衰退の危機に瀕している。造礁サンゴ(以下、サンゴ)は、褐虫藻と呼ばれる単細胞藻類を細胞内に共生させており、両者は相利共生関係を築いている。この共生系こそがサンゴ礁の基盤である。本研究では、サンゴ礁の基盤を構成する「サンゴと褐虫藻の共生」が、どのように始まり、そして崩壊するのか、そのメカニズムを分子レベルで解明することを目的としている。 今年度は、共生に関連する遺伝子を特定するために、サンゴ(ウスエダミドリイシ Acropora tenuis)の初期ポリプに天然海域で実際に共生している褐虫藻種を感染させ、ウスエダミドリイシが持つ全遺伝子の発現量を網羅的に調べた。そして、褐虫藻を感染させていないポリプと遺伝子発現量を比較することで、両者で発現量が異なる遺伝子、すわわち、共生に関連する遺伝子の特定した。加えて、プラヌラ幼生において、共生時に発現量が変化する遺伝子と比較解析を行うことで、より確実に共生に関連する遺伝子の絞り込みに成功した。本成果は国際誌(査読有)にて公表した。 さらに、詳細な共生分子メカニズムを解明するために、先行研究で報告されているサンゴ培養細胞株を使った実験系の確立にも着手した。しかし、既存の培養細胞株は取り扱いが難しく、実験の進行は難航している。
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