研究課題/領域番号 |
23KJ2188
|
研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
川末 慎葉 国立医薬品食品衛生研究所, 食品衛生管理部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
キーワード | マリントキシン / HPLC / LC-MS / 誘導体化 / 天然物化学 |
研究実績の概要 |
本研究ではパリトキシンのような環状ポリエーテル構造を持つ化合物を誘導体化し、LC-ESI-MSにおける脱水イオンの生成を抑制し、検出感度や分析精度を向上することを目的としている。 2023年度は、脱水イオンを抑制する原理の確認、パリトキシンのジオール構造と反応する誘導体化試薬の開発を行った。パリトキシンは貴重であり、高価なものであることから、一部、アザスピロ酸とテトロドトキシンを代替のマリントキシンとして利用した。 アザスピロ酸はパリトキシンと同様にポリエーテル構造を持つがESI-MSのポジティブモードで検出されやすい2級アミン構造を持つ。そこで、アザスピロ酸の脱水イオンをLC-ESI-MSで確認したところ、パリトキシンよりも脱水イオンが生成されにくかった。従って、イオン化効率を向上させることが脱水イオンの生成を抑制することがさらに明確となった。そこで、イオン化効率を高める4級アンモニウム構造を持つ誘導体化試薬を利用してパリトキシンを誘導体化したが、脱水イオンを抑制は確認されなかった。 パリトキシンには複数のヒドロキシ基が存在し、ジオール構造に対して誘導体化するには、反応の制御が必要であった。そこで開発した誘導体化試薬を入手が容易なテトロドトキシンへと適用し、検討を行った。その結果、テトロドトキシンの6, 11-ジオール構造に選択的に反応する誘導体化試薬の合成に成功した。さらにこの誘導体化試薬はテトロドトキシン分析の課題を克服する効果が得られることが確認され、国内学会(日本食品衛生学会第119回学術講演会)、国際学会(International Symposium in Okinawa, 2023, on Ciguatera and Related Marine Biotoxins)で発表を行った。日本食品衛生学会第119回学術講演会では若手優秀発表賞に選出された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱水イオンを抑制する誘導体化法の確立のため、ESI-MSにおける脱水イオンを抑制する原理確認をアザスピロ酸を用いて行った。その結果、イオン化効率の向上が脱水イオンの抑制につながることを確認した。しかし、パリトキシンに4級アンモニウム構造を持たせても脱水イオンを抑制できなかったことから、パリトキシンに複数の電荷を持たせ、最も検出されやすい質量電荷比をMSの測定可能な範囲に入れることが必要であると確認することができた。 ジオール構造に対する誘導体化試薬は、特定のジオール構造にのみ反応するような選択性を持たせる必要があったが、様々な誘導体化試薬を合成し、テトロドトキシンへと適用することで反応の制御に成功した(日本食品衛生学会第119回学術講演会、International Symposium in Okinawa, 2023, on Ciguatera and Related Marine Biotoxins)。
|
今後の研究の推進方策 |
誘導体化試薬の合成には、合成法の容易さ、合成コストが問題となる。本研究は簡便なパリトキシン分析法を構築することを目的としているため、容易で低コストな合成ができる誘導体化試薬を開発する。しかし、イオン化効率の高い4級アンモニウム構造を複数持つ誘導体化試薬は不安定であり、誘導体化試薬としての安定性もさることながら、合成法も複雑になりかねない。そこで、酸性移動相下でイオン化されやすい3級アミン構造を複数持つ誘導体化試薬の開発にも着手する。可能な限り安価な試薬を利用して簡便に合成できる試薬を開発し、分析法の低コスト化に取り組む。 また、開発しテトロドトキシンへと適用したジオール構造に対する誘導体化試薬をパリトキシンに適用し、その有用性も検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究期間中に分析機器が故障し、研究が停止する期間があったことから生じた。 本年度は、研究体制が整ったこともあり前年度に実施する予定だった内容も含めて行う予定である。
|