研究課題/領域番号 |
23KJ2194
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
竹脇 大貴 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 免疫研究部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
キーワード | 多発性硬化症 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
我々は、治療反応性である再発・寛解型多発性硬化症 (RRMS) と、難治性である二次進行型多発性硬化症 (SPMS) とでは、腸内細菌叢の機能が大きく異なることを明らかにしてきた。本研究は、SPMS患者の腸管内で特異的に増加する特定の腸内細菌が、神経炎症・神経変性を引き起こす機序を明らかにし、腸内細菌を標的とした新たな治療法を実現することを目的としている。事前実験により、SPMS患者の腸管内で特異的に増加し、神経障害度スコアや脳萎縮度と正に相関する腸内細菌種としてTyzzerella nexilisを同定した。SPMS患者の糞便から単離培養に成功したSPMS_T. nexilis株を無菌化疾患モデルマウスに投与したところ、大腸におけるTh17細胞の増加と共に、神経障害の悪化が確認された。本研究では、SPMS_T. nexilis株を定着させたマウスを用いて、神経障害を悪化させる機序を解明することを目的としている。2023年度は、各T.nexilis株と抗原提示細胞との共培養実験を行うことで、SPMS_T. nexilis株は特異的にtoll様受容体5 (TLR5) を刺激する事を明らかにした。さらに各T. nexilis株を単菌定着させたマウスの大腸上皮の網羅的遺伝子発現解析を行うことで、SPMS_T. nexilis株を定着させた群において、血清アミロイドA1を含む接着関連遺伝子の発現が上昇することを確認した。さらにSPMS_T. nexilis株は、TLR5への刺激と腸管上皮への接着を介して、大腸局所で病原性Th17細胞を誘導することを明らかにした。以上より、SPMS_T. nexilis株は腸内細菌依存性の神経炎症を介して宿主の神経障害を悪化させていると考えられるが、今回明らかにしたTLR5への刺激や腸管上皮への接着は、SPMSの新たな治療標的として有望である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は (1) SPMS 患者で増加する腸内細菌が神経炎症を引き起こす機序の検証と (2) SPMS 患者で増加する腸内細菌が神経変性を引き起こす機序の検証という2つの項目で構成されている。項目 (1) については、当初予定していたSPMS_T. nexilis株が神経炎症を悪化させる機序に関して、単菌定着マウスを用いた解析により、その分子メカニズムを明らかにした。今後は、SPMS_T. nexilis株の選択的排除や、特定の分子メカニズムに焦点を当てた研究を進めることで、腸内細菌を標的とした新規治療法の開発につなげていきたい。一方で、当初より2年目以降の実施を予定していた項目 (2) に関して、研究を進める上で必要となる遺伝子改変マウス (NR4A2欠損マウス) の無菌化に成功し、事前実験を進めているような状況である。以上より、当初の予定に沿う形で研究は進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
SPMS患者の腸管内で増加し、神経炎症を増悪させることを確認したT. nexilisに関しては、菌自体の選択的排除や、神経炎症増悪メカニズムに注目した治療法開発へとつなげていく予定である。神経変性を悪化させる特定の腸内細菌 (Eomes陽性T細胞誘導菌) に関しては、予定通り2年目以降に菌種の同定から特異的メカニズムの解明へとつなげていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験計画に一部変更が生じたため。次年度使用額として実験関連試薬の購入に使用する予定である。
|