研究実績の概要 |
温度は生体に直接影響を与える重要な環境情報である。本研究では動物の温度馴化を制御するメカニズムを解明するために、線虫C. elegans多型株を用いて温度馴化に関わる新規の遺伝子の同定を目指した。線虫C. elegansは単離された産地によって異なる温度馴化を示し(Okahata et al., JCPB, 2016)、この原因遺伝子多型としてVH遺伝子を同定した。VH遺伝子は酸素と二酸化炭素を受容する感覚ニューロンで発現していた。酸素受容ニューロンからの酸素情報が温度応答に影響を与えることを報告していたことから(Okahata et al., Science Advances, 2019)、この神経回路が温度馴化多様性に影響を与えている可能性が考えられた。そこで、酸素濃度を変化させた際の多型株の温度応答性を調べた。高い酸素濃度下では温度応答多様性が見られたが、低い酸素濃度下では温度応答多様性が見られなくなった。このことから、環境の酸素濃度が温度応答多様性を生み出すことが示唆された。 VH遺伝子は線虫特異的な機能未知の遺伝子であったため、VH遺伝子の機能解析をおこなった。VH遺伝子の発現時期を調べたところ、胚発生の時期に特異的に発現することがわかった。そこで、VH遺伝子が発現するニューロンの発生に関わる可能性を考え、VH変異体のニューロンを観察したところ、軸索の発生異常が見られた。これらのことから、VH遺伝子は胚発生の時期に神経発生を制御する遺伝子として機能することで温度応答性に影響を与えることが示唆された。
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