研究課題/領域番号 |
23KK0056
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
毛受 弘彰 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (10447849)
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研究分担者 |
大島 仁 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (40968294)
田村 忠久 神奈川大学, 工学部, 教授 (90271361)
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研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2027-03-31
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キーワード | 超高エネルギー宇宙線 / ハドロン相互作用 / LHC |
研究実績の概要 |
超高エネルギー宇宙線は銀河系外を加速して生成されていることがわかっているが、具体的な加速天体や加速メカニズムについてはわかっていない。この研究を困難にしている要因の1つが超高エネルギー宇宙線と地球大気との衝突によって生じる空気シャワー現象の理解不足である。超高エネルギー宇宙線の観測では、宇宙線が大気と衝突して生じる空気シャワー現象を用いて行われている。そのため、観測結果を正しく理解するためには空気シャワー現象の理解、特に宇宙線と地球大気によるハドロン相互作用の理解が重要となっている。本研究では、この宇宙線と大気とのハドロン相互作用の理解を、スイスのCERN研究所に設置されている世界最大の粒子加速器であるLarge Hadron Collider (LHC) を用いた測定(LHCf実験)と、アメリカ・ユタ州で行っている宇宙線観測(Telescope Array実験)とを組み合わせて行っていく。 LHC加速器ではこれまで陽子ー陽子衝突や陽子ー鉛原子核衝突での測定が行われてきたが、これらは実際の宇宙線と大気原子核との衝突とは異なっている。我々を含む宇宙線コミュニティの長年のリクエストによって、LHCで陽子ー酸素原子核の衝突が2025年(当初予定では2024年)に実現する。そこでのLHCf実験の測定を実現すべく、冬にCERN研究所にてデータ収集システムや検出器の準備作業を行った。このときにシステムの最適化によってデータ収集スピードを従来よりも2倍高速にすることに成功した。これによって測定時の取得統計量の増加が期待できる。 またTA実験では低エネルギー拡張であるTA-TAIL Infill アレイの設置が進められて、データ取得が順調に進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の核となる2つの実験の1つであるLHCでの陽子‐酸素原子核衝突の測定が計画立案当初予定されていた2024年から2025年に変更になってしまった。これは2023年12月に、LHC運営委員会にて2022年度と2023年度のLHC加速器の運転実績を踏まえて、2024年と2025年の運転スケジュールの大幅な見直しが行われたためである。LHCの運転スケジュールはATLASなど他の実験や加速器のメンテナンスなどの都合を考慮して総合的に決定されるため、陽子‐酸素原子核衝突の時期の変更は受け入れざるおえないものである。
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今後の研究の推進方策 |
LHC加速器での陽子ー鉛原子核衝突の測定は残念ながら2025年に延期されてしまったが、2024年度は余裕ができた時間をつかってLHC測定の準備の更なる入念な準備と、TAによる宇宙線空気シャワー観測とハドロン相互作用のパラメータの関係をシミュレーションを用いて研究を行う。 2023年冬に陽子ー鉛原子核衝突測定のLHCf実験の測定の準備を順調に進めることができた。さらにLHCfとATLAS実験の共同測定の準備をATLAS実験のメンバーと共に2024年冬のLHC停止期間中に行う。本番測定は5日間程度しかないため、その短い時間を有効に測定に使うために試運転時間を最小化する必要がある。ATLASとの共同測定は過去にも成功させているが、トリガータイミングなど測定ごとに調整が必要である。これを測定前に事前に行うことによって2025年6月の測定時に共同測定を確実に成功できると共に試運転時間を最小にすることができる。 本研究ではLHCで測定した結果を組み込んだシミュレーションと実際のTAによる宇宙線観測と比較することで、宇宙線相互作用の更なる理解を進めることがポイントである。LHCf実験結果を想定した値をシミュレーションに組み込んでTA実験の応答を求めることで、LHCf実験が感度がある測定量とTA実験の観測量の関係を明らかにする。これによって、実際の測定データが出たとこの解析をスムースに行うことができると共に、より実際に即した解析を事前に行うことでLHCfとTAの観測に必要な統計量や測定精度についてのフィードバックをかけることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたLHCでの測定が2024年から2025年に延期になったために、準備のための渡航を一部2024年に延期したため。
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