研究課題
北極域での急速な温暖化は、雪氷(積雪、氷床、海氷)の融解を進行させ、陸面や海面を露出させる。その結果、北極域の陸地や海洋から鉱物ダストやバイオエアロゾル(気中の微生物)などの自然起源エアロゾルの発生規模や頻度は、将来的に増加することが予測される。これらは北極域の下層雲内での微物理過程に作用することで、北極域での放射収支や降水に大きな影響をもたらす可能性がある。そこで本研究では、北極域の中でも温暖なグリーンランド南部において、北極域の自然起源エアロゾルがどのように変動し、それらが雲核(氷晶核、雲凝結核)としてどのように寄与するのかを明らかにすることを目的とする。現地調査は、日本とスイスの合同研究チームがグリーンランド南部の町・ナルサークに開設するスーパーサイトで実施する。本国際共同研究の遂行によって、「温暖化によって北極域で雪氷が減少した際にエアロゾルや雲の微物理特性に生じる変化」についての先験的な知見が得られることが期待される。2023年夏に日本とスイスの合同研究チームによるナルサークのスーパーサイトでのエアロゾル観測を実施したが(日本からは2023年7月に當房、足立、大畑の3名が現地を訪問し、鉱物ダストやバイオエアロゾルなどの自然起源エアロゾルを主な対象とした集中観測を実施)、初年度にあたる2023年度は、その際に得られたエアロゾル試料の分析やデータ解析を進めた。また、現地訪問で得られた情報を整理し、次回の同サイトでのエアロゾル観測の実施を見据えた研究計画の議論などを行った。
2: おおむね順調に進展している
グリーンランド南部の町・ナルサークに新たに開設されたスーパーサイトを活用し、2023年夏に日本とスイスの合同研究チームによるエアロゾル観測を実施することができた。日本の研究チームは、エアロゾルサンプラーによるエアロゾルのサンプリング(主に電子顕微鏡による個々のエアロゾルの大きさ、形状、組成等の詳細分析に使用)やバイオエアロゾル粒子数測定システム(WIBS-NEO)による蛍光性のバイオエアロゾルの数濃度の計測などを担当した。現在、これらのエアロゾル試料の分析やデータ解析を進めているところである。
当初の計画では、2024年と2025年の両方の夏にナルサークでのエアロゾル観測を実施する予定だったが、2023年夏のエアロゾル観測時に数多くの観測データや試料が得られた点や最近の社会情勢の変化による影響(特に円安による予算執行計画への影響)などを考慮し、2024年夏のエアロゾル観測に関しては、実施しないことになった。そこで2024年度に関しては、2023年夏に得られたエアロゾル試料の分析やデータ解析等に重点を置いた研究活動を行う予定である。日本とスイスの双方による研究の進捗状況の確認や2025年夏に予定している次回のエアロゾル観測の実施計画の議論については、毎月オンラインで開催しているセミナー(Greenfjord Seminar Series)等を通して行っていく予定である。
当初購入を予定していたエアロゾルサンプラーや消耗品に関して、メーカー側の都合(下請け会社の変更)や円安の影響によって価格や納期に大幅な変更が生じた。また、2024年夏にはナルサークでの現地観測を実施しないことになったことで、日程に多少余裕ができたため、2023年度内の購入は見送ることにした。今後は円安の状況等を注視しつつ、2024年度内の購入を予定している。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 備考 (5件)
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