研究課題/領域番号 |
23KK0104
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
是津 信行 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10432519)
|
研究分担者 |
佐伯 大輔 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (70633832)
清水 雅裕 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (90780601)
|
研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2027-03-31
|
キーワード | リチウムイオン二次電池 / 複合アニオン / 固液界面 / 吸着 |
研究実績の概要 |
モンペリエ大学で実施した,オペランドATR-FT-IR測定により,F-置換により,LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM)電極と電解液界面におけるイオン交換反応が高速化されることがわかった。また,高い充電率条件において見られる電解液の酸化分解反応も,顕著に抑制されることを明らかにした。 次に,F-置換量の異なるFx-NCMを対象に,電極と電解液界面反応の起点となる,電解液の吸着構造変化に注力した。1MのLiPF6を含むEC-DMC混合電解液に浸漬した状態で,ATR-FT-IRスペクトルを測定した。興味深いことに,リチウムイオンと配位していない DMCの振動スペクトルのみ, F置換による振動スペクトル変化が顕著に見られた。電極表面に吸着したDMCのエーテル基由来の振動ピークは低周波数シフトし,そのシフト量はF置換量に依存した。一方で,カルボニル基の振動エネルギーは高エネルギー化されていることから,F置換により,NCM電極表面におけるDMC分子の吸着構造が変化したことを示唆する。これまでの報告で,DMC分子はリチウムイオンと強く配位するため,一般にはDMCとの脱溶媒和過程が電極界面のイオン交換反応を律速すると言われてきた。DMC分子の吸着構造が変化したことにより,固液界面におけるイオン交換反応が高速化されたと考える。また,電解液分子の分解反応によって生成する分解物の組成や膜質にも影響を与えた可能性が高い。実際に,XPSコアレベルスペクトル測定,電気化学インピーダンス測定,陽電子消滅測定から,電極表面に生成した不働態膜の組成,膜厚,イオン伝導,多孔質構造に大きな変化が見られた。これらの成果は,第64回電池討論会で報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モンペリエ大学との連携により,F置換によりもたらされる効果の本質に迫る解析ができるようになったことは大きな成果であった。また,電極表面に形成される不働態膜の多孔質構造について,陽電子消滅法による知見が得られた。世界始めての結果であり,従来のガス吸着法では測定できなかった,日貫通孔の解析ができるようになったことの学術的価値は高いといえる。以上より,当初計画通りの取組ができている。一方で,若手研究者の交流という面では,当初予定よりも遅れがでている。当初は,申請者および若手研究者が渡航し,現地での実験を計画していたが,受入担当教員の出産次期と重なったため,オンラインでのミーティング開催と国際便によるサンプルの郵送にとどまった。これらを踏まえ,概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
LiNi0.82Co0.15.Al0.03O2,LiNi0.5Mn1.5O4,NaFe0.4Ni0.3Mn0.3O2,の電極活物質を対象に,F-, Cl-, S2-,をそれぞれ置換した二元系複合アニオン化表面における電解液や添加剤分子の吸着構造,分解反応初期過程の計測,さらにCEI層の多孔質構造の解析に注力し,サイクル特性や入出力特性向上の起源を丹念に調べる。固液界面ダイナミクス解析とCEI層の化学状態分析は,サイクリックボルタンメトリーや電気化学インピーダンス測定,X線光電子分光測定により行う。電極表面における電解液分子等の吸着構造解析はATR-FTIRスペクトル測定やラマンスペクトル測定,CEI層の多孔質構造解析は陽電子消滅寿命測定により行う。カーボネート系を中心とする分子構造(特に電子供与性官能基)や添加剤,リチウム塩の対アニオンの影響を調べる。この課題では,表面活性の高いNCM811正極と,5V動作するLiNi0.5Mn1.5O4正極をモデル電極とする。さらに,当初計画通り,夏季休暇等の長期休暇期間を中心に,本研究に参画する若手研究者と博士課程進学予定の学生をモンペリエ大学に派遣する。Prof. N. Louvainの指導のもと,オペランドマルチフィジックス計測により,電解液の分解反応初期過程における分解生成物の同定と固液界面におけるイオン交換反応ダイナミクス計測に注力する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初,2024年2月末から若手研究者をモンペリエ大学に派遣する計画があり,出張旅費を計上していたが,受入先教員の出産次期が重なり,現地での対応が困難になり,出張を取りやめたため。持ち越し分は,2024年渡航時の実験で用いる消耗品費と若手研究者の旅費に充当する。当初計画よりも滞在期間を延長し,実験以外にも,若手研究者を中心とするセミナーを現地で開催し,交流の場を積極的に設けることで,共同研究を加速して進めるための体制を整える。
|