研究課題/領域番号 |
23KK0117
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩滝 光儀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (50423645)
|
研究分担者 |
小澤 眞由 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 研究員 (60910263)
鈴木 敏之 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 部門長 (70371804)
|
研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2027-03-31
|
キーワード | 有害藻類 / 渦鞭毛藻 / カレニア科 / 系統分類 / 系統地理 / 微細構造 / 増殖特性 / 東南アジア |
研究実績の概要 |
東アジアと東南アジアを含めたアジア太平洋沿岸域に分布するカレニア科を中心とした有害赤潮渦鞭毛藻を対象に,細胞形態と系統的位置を明らかにし,種と個体群レベルでの分布把握を目的とした現地調査を開始した。東南アジアでは,2023年12月にフィリピン・サンバレス州,2024年3月にフィリピン・アクラン州の沿岸で現地研究者と合同で試料採集を行い,顕微鏡観察による出現種の把握と培養株作成を進めた。日本でも神奈川県,広島県,高知県等の沿岸から海水試料を入手して微細藻類の出現種を観察してカレニア科渦鞭毛藻を中心とした培養株作成を進めた。作成した培養株に加え,すでに保有する培養株も含めて細胞観察と分子系統解析を行っている。2023年11月に広島で開催された国際有害藻類学会ではアジア太平洋域の有害藻類研究者が参加するワークショップを開催した。ここではカレニア科渦鞭毛藻の出現に関する情報を提供し,東南アジア沿岸域における有害赤潮の発生情報を入手した。Karenia mikimotoiとKarenia selliformisに関しては産地と種内系統群が異なる日本産株を用い,水温に対する増殖特性,そして細胞と葉緑体のサイズや形状の違いの計測を開始した。これらについては種内系統群を識別して分布や増殖特性等の把握を進めるが,特にK. mikimotoiについては東南アジアにおける広い分布が知られているため,中国,タイ,フィリピン等の海外研究協力者から出現情報を入手し,培養株の提供を依頼した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東アジアと東南アジアにおけるカレニア科渦鞭毛藻を中心とした有害赤潮原因種の出現情報を海外研究協力者より入手しながら,現地での合同調査による培養株の作成,そして作成した培養株の形態観察と系統解析を進めた。フィリピンで2023年12月と2024年3月に実施した現地調査では,Karenia mikimotoiやKarlodinium ballantinumなど数種のカレニア科渦鞭毛藻の出現が確認できたため,現地研究室で培養株を作成して維持している。カレニア科以外では,有殻渦鞭毛藻Scrippsiella sp.と無殻渦鞭毛藻Wangodinium近縁種の培養株を作成した。予備的な系統解析ではこれらの培養株は既報の系統群に含まれないことが確認されたため,走査型電子顕微鏡を用いて細胞表面を詳細に観察した。日本沿岸でも調査を実施し,カレニア科渦鞭毛藻の培養株を追加している。また,カレニア科渦鞭毛藻の種内系統群間における水温耐性の違いを理解するため,日本産のKarenia selliformisとKarenia mikimotoiの複数の培養株を用いて水温に対する増殖特性と,細胞と葉緑体のサイズの計測を開始した。国際有害藻類学会では西太平洋地域のワークショップとしてカレニア科渦鞭毛藻,特にKarenia selliformisの形態と系統に関する情報を提供し,東南アジアの研究協力者からはカレニア科渦鞭毛藻の出現情報を得て,培養株の提供を依頼した。
|
今後の研究の推進方策 |
東アジアと東南アジア沿岸域における赤潮出現情報の入手と共有を継続し,カレニア科を中心とした有害赤潮渦鞭毛藻の培養株作成,形態観察,分子系統解析,色素分析,毒分析,増殖試験を進め,分布に関する情報をまとめる。東南アジア各国を訪問し,小型有害渦鞭毛藻の採集を含む現地調査を現地研究者と合同で実施する。次年度はマレーシアで現地研究者との合同調査を計画している。確立した培養株を用いた研究室内での形態観察,分子系統解析,色素分析を中心に計画し,これまでに形態的・遺伝的形質が取得できている小型有害渦鞭毛藻については種レベルと個体群レベルでの分布情報のとりまとめを進める。カレニア科については,フィリピンでの現地調査と培養株作成が順調に進んでいるため,これをさらに進める。東南アジア各国より若手研究者を日本に招聘し,有害赤潮渦鞭毛藻の培養株作成,形態観察,系統解析等の研究作業を合同で実施することで次世代の研究者の育成を図る。次年度は,フィリピンとタイから若手研究者を招聘して培養株作成,電子顕微鏡観察,分子系統解析を行う予定である。東南アジア各国よりKarenia mikimotoiを中心としたカレニア科渦鞭毛藻の培養株を入手し,水温に対する増殖試験に用いる。4月に札幌で開催されるアジア太平洋藻類学フォーラムとタイ・バンコクで開催されるWESTPAC科学会議に参加して海外研究協力者から有害赤潮渦鞭毛藻の出現情報を入手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は東南アジアでの現地調査を実施したが,これらの調査に使用した外国旅費と消耗品費は,2022年度までに海外調査が実施できなかったため繰り越されていた他プロジェクト経費が充当できたため,本研究での外国旅費は使用していない。アメリカ・シアトルで開催予定であった北太平洋海洋科学機関(PICES)のS-HABミーティング,そしてWESTPAC-HABワークショップ開催準備のミーティングはオンラインで実施されたため旅費の一部を使用していない。2023年度中の開催を想定していたアジア太平洋藻類学フォーラム(札幌)とWESTPAC科学会議(バンコク)は2024年4月に開催されたため,次年度の使用となった。次年度使用の経費はアジア太平洋藻類学フォーラム(札幌)とWESTPAC科学会議(バンコク)の出張旅費と参加費,そして海外調査と招聘経費を予定している。
|