研究課題/領域番号 |
23KK0127
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
清水 隆之 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (90817214)
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研究分担者 |
CATTI LORENZO 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (50873478)
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研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2027-03-31
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キーワード | 硫黄代謝 / トランスポーター / システイン修飾 / 光合成細菌 / 硫化水素 |
研究実績の概要 |
本研究では、「超硫黄分子による転写制御」を主軸に、超硫黄分子の中でも新たに生体分子としての機能が期待されている環状化硫黄S8に着目して、超硫黄分子依存のシグナル伝達におけるS8の役割を明らかにする。 生物にとって毒である硫化水素は、生体内で生合成されて様々な生理機能の調節にも関わる「諸刃の剣」である。硫化水素による生体機能の制御では、ポリスルフィド化合物である「超硫黄分子」がシグナル分子の実体として機能する。一方で、申請者の研究を含めたほとんどの超硫黄分子関連研究では、細胞内の主要な超硫黄分子だと考えられてきたシステインパースルフィドやグルタチオンパースルフィドを主体とした有機超硫黄分子にのみ着目して解析が行われてきた。しかし、最新の研究から、無機硫黄分子であるS8が、様々な生体機能に深く関わることが示唆されてきた。したがって、超硫黄分子による生命機能の制御を真に理解するためには、これまでの知見の中での無機超硫黄分子S8の位置づけを明確化することが必要不可欠である。 真核生物では馴染みのないS8だが、細菌では硫化水素酸化過程において、S8やポリ硫黄 (Sn)を主成分とした“硫黄顆粒”と呼ばれる直径0.5~5 μmの顆粒が細胞内あるいは細胞外に産生されることが知られている。そこで、申請者が細菌を用いた研究から明らかにした超硫黄分子応答性の転写因子SqrRの作用機序や超硫黄分子との関係性を踏まえて、1)細胞内での超硫黄分子の合成場所とS8への代謝過程、および、2)S8の細胞外排出経路と硫黄顆粒の形成機構を解明することで、超硫黄分子によるシグナル伝達の分子機構の詳細解明を試みる。得られる成果は、超硫黄分子から生体機能を理解するための重要な指針となり、これまで見過ごされてきたS8による新たな生理機能の発見を可能にすることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は、2023年10月より奈良女子大学に異動したため、新しい研究室立ち上げのために研究を一時的に停止せざるを得なかった。そのため、最低限の実験と共同研究によって、以下の結果を得ることが出来たが、当初の予定からは進捗が遅れた。 S8の細胞外排出経路については、硫黄顆粒を細胞外に排出するために必要な輸送体を同定している。本輸送体を欠損させた株では、硫化水素酸化に伴って細胞外に蓄積される硫黄顆粒が、細胞内に蓄積することがわかっている。これら細胞内外に産生される硫黄顆粒を顕微ラマン分光で解析したところ、S8が主要な構成分子であり、組成に大きな違いはないことが明らかになった。したがって、本輸送体は、硫黄顆粒を構成する超硫黄分子を細胞外に排出するために重要であることが確認された。 さらに、本輸送体の欠損株は、SqrR依存的な転写制御に異常が生じることがわかった。これは、細胞内に蓄積した超硫黄分子によってSqrR依存的な転写制御が影響を受け続けることが原因だと考えられ、細胞内の超硫黄分子を含んだ硫黄代謝物の恒常性を維持するために本輸送代が重要であることを示唆している。 また、海外共同研究先のボン大学に1週間出張し、Dahl教授と対面で打ち合わせを行った。硫黄顆粒の細胞内局在を検証するための解析や硫黄代謝物の定量について本研究に適した解析手法を検討した。さらに、トランスクリプトームデータを精査し、SqrR依存的な超硫黄分子シグナルに関連する硫黄代謝関連酵素をいくつか同定した。
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今後の研究の推進方策 |
研究進捗の遅れを取り戻すために、まずは本研究の中心となる硫黄顆粒とS8輸送体に着目した解析を行う。 具体的には、輸送体欠損株で細胞内に蓄積する硫黄顆粒の局在を明らかにすることで、硫黄顆粒を構成する超硫黄分子・硫黄代謝物の代謝場所を同定する。硫化水素酸化酵素SQRの欠損株では硫黄顆粒が産生されなくなることがわかっており、本細菌のSQRはペリプラズム空間に局在することが報告されているため、ペリプラズム空間に局在していると仮定して解析を進める。 また、輸送体の基質を同定するために、輸送体を欠損させた際の細胞内外の超硫黄分子を網羅的に定量する。本解析のためには、適切な培養条件が鍵となるため、予備的に定量を進めると同時に、硫黄顆粒の輸送を経時的に観察できる培養条件の検討および硫黄顆粒・細胞・細胞上清の分画を試みる。さらに、輸送体とS8の共結晶による構造解析を行い、基質認識のメカニズムも含めて、輸送体の基質決定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年10月に奈良女子大学に異動になったことに伴い実験を一時的に停止したため、次年度使用額が生じた。次年度では、質量分析による解析で費用がかかるため、未使用額はその経費に充てることにする。
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