研究課題/領域番号 |
23KK0195
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30348809)
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研究分担者 |
西田 千春 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任講師 (00572463)
三谷 亮介 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任助教 (10980609)
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研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2027-03-31
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キーワード | エアロゾル / 中央アジア / ウズベキスタン / 化学分析 / 有害性評価 / PM2.5 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、まず本研究の前提となるウズベキスタンおよび中央アジアにおける大気汚染対策状況を調査した。中央アジア諸国の大気質モニタリングシステムは、総じて日本と比較して非常に貧弱であるが、その中でウズベキスタンには旧ソ連時代から受け継がれた広範な環境モニタリングシステムがあり、400以上の環境モニタリングポストがある。しかし、PM2.5の成分分析は進んでいないほか、大気環境に関する専門家の育成も重要な課題である。 次に、今後ウズベキスタンにおいて大気観測を実施し、その特徴を明らかにするために必要不可欠である日本の状況について調査を進めた。当研究室において開発された、衝突板を有するインパクターとサイクロンを組み合わせた大流量粒子サンプラーK-RiC (Keio-Real impactor with Cyclone) を用いて横浜および福岡において採取された21のPM2.5サンプルについて元素組成の特徴を解析した。その結果、福岡では相対的にアルミニウム含有量が高かったのに対し、横浜では鉄含有量が高かった。今後ウズベキスタンでの大気観測を行う上で重要な比較対象となる日本の複数地点におけるPM2.5粒子の化学特性を把握することができた。 さらに、今後ウズベキスタンの現地における使用条件を想定した、小型光学PM2.5計の稼働試験を実施した。環境条件制御ブース(2×2×2m)内に、柴田科学社製 Chicco-iino PS-2および光明理化学工業社製PMT-2500をそれぞれ5台と、PM2.5濃度の基準器として米国環境保護庁USEPA認証の光散乱法・ベータ線吸収法ハイブリット型 PM2.5 等価測定法モニターを設置し、タイプの異なる粒子を発生させてそれぞれの応答を調べた。その結果、PS-2とPMT-2500では微小粒子および粗大粒子に対する応答がそれぞれ異なることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度途中での採択であったため、初年度は半年という研究期間であったが、概ね予定していた研究を進めることができた。上述の通り、ウズベキスタンおよび中央アジアにおける大気汚染対策状況の調査、今後ウズベキスタンでの大気観測を行う上で重要な比較対象となる日本の複数地点におけるPM2.5粒子の化学特性の把握、および現地における使用条件を想定した複数の小型光学PM2.5計の稼働試験を実施した。当初予定していた2024年3月のウズベキスタン渡航が先方の都合によりキャンセルされてしまったのは残念であったが、その一方で当初予定していなかったがウズベキスタン現地の研究協力者であるAlimov博士が11月に1週間来日されたため、その間に詳細な研究打合せを実施することができた。以上を勘案し、現在までの到達度を、おおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、中央アジア最大の人口および人口密度を有するウズベキスタン共和国の首都タシケントにおいて、中央アジア地域の大気環境改善のための低コスト大気汚染影響監視システムの社会実装基盤を構築することを目的とする。具体的には、低コスト環境機器類について実用性試験を実施した後にウズベキスタンに設置し、中央アジアで得られる特徴的な粒子状物質の有害性を調査すると同時に、当該研究が現地人材により持続可能に遂行できるシステムの構築および若手研究者の人材育成を行うことを目指す。 今年度までに、ウズベキスタンおよび中央アジアにおける大気汚染対策状況の調査、今後ウズベキスタンでの大気観測を行う上で重要な比較対象となる日本の複数地点におけるPM2.5粒子の化学特性の把握、および現地における使用条件を想定した複数の小型光学PM2.5計の稼働試験を実施した。今後は日本において採取されたPM2.5サンプルを対象に生物分析(毒性試験)を進め、現地でのサンプルが得られた際に円滑に実験を進められる体制を構築する。具体的には、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549細胞)を一定量播種培養したマルチウェルプレート上に、粒子を浸漬して調製した懸濁液を曝露し、一定時間後の生存率をWST-1 Assay、炎症性サイトカイン (IL-6等) の放出(発現)量を酵素結合免疫吸着法 (ELISA) またはリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) Assay 等によりそれぞれ測定する。2025年3月までに1週間ウズベキスタン現地視察を実施し、関連研究機関を訪問して機器設置地点を確認した後、実際にウズベキスタン・日本青年技術革新センター(UJICY)に大気観測機器を設置し稼働を開始する。成果発表は、国内1件(大気環境学会)、国際学会1件(Asian Aerosol Conference)を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた2024年3月のウズベキスタン渡航が先方の都合によりキャンセルされたことによりその分の旅費が余ったため、およびその他の費目において小額の未使用分が発生したため
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