研究課題/領域番号 |
24000007
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
河野 公俊 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (30153480)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | 低温物性 / トポロジカル超流動 / 対称性の破れ / 非線形非平衡現象 / ヘリウム液面電子 / ヘリウム液面イオン / 少数電子制御 / 量子計算 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際的に高く評価されている2次元電子系やイオン系を用いたヘリウム表面に特有な量子現象の研究によって、これまでに得られた知見の中で特に重要なものについて、集中的に研究を深化させることにより、これまでの研究を集大成することを目的とする。具体的には以下の項目について重点的に研究を行う。 1 超流動ヘリウム3自由表面に存在することが期待されるマヨラナ表面状態を検出するための実験手法を確立する。バリウムイオンの液体ヘリウム中レーザー分光の手法を用いて、光ポンピングによるスピン偏極とその緩和時間測定への応用を自由表面下において実現する。 2 ヘリウム表面上2次元電子系で我々が発見した、表面準位間のマイクロ波励起に伴う磁気伝導度消失現象の機構解明と、ヘリウム表面上の単電子輸送を組み合わせる。これによって、表面状態の量子ダイナミクスを研究すると同時に、そこで得られた知見を量子ビット作成へと応用する。 今年度は、液体ヘリウム中バリウムイオンの生成を試行する過程で明らかになった、電気流体力学的に興味深い多くの現象について高速度カメラを駆使した観測とその解析を行い結果を論文として発表した。また、ジスプロシウム原子の励起状態のレーザー分光を用いて、原子と超流動ヘリウム中の素励起との相互作用に起因すると考えられる現象を初めて観測した。幅7.5ミクロン深さ2ミクロンの毛細管凝縮したヘリウムチャネル上の擬1次元ウィグナー結晶ので昨年度見出したスティックーズリップ現象に関して、表面張力波系とウィグナー結晶の強結合自縛状態への凝縮と、自縛状態からの解放に関する動的過程の理解に向けた測定を積み重ねた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体ヘリウム表面にバリウムイオンを捕獲して、そのレーザー分光を用いる実験のアイデアはこれまでにない研究の飛躍をもたらす可能性を強く感じさせるものである。しかし、イオンをヘリウム表面下に捕獲しその発光を捉えることは簡単ではないことが明らかになった。この1年の間、セルの改良、電極構造の変更などを行い、試行を重ねたが、バリウムイオンからの信号を確認するには至らなかった。その一方で、多彩な電気流体力学効果の解析を行い、ナノ粒子のシャトル運動、空間電荷効果、表面の変形などについて現象の発現機構を解明することができた。 一方、少数電子制御では毛細管凝縮を利用したマイクロチャネル上のウィグナー結晶で発見した、スティックースリップ現象に関する特定を進め、ウィグナー結晶と液面の凹みとの結合と乖離がどのように行われるのか、その動的な側面に関するデータを蓄積した。マイクロ波励起下の磁気伝導度の消失と不均一電荷密度領域の自発的形成についての理解が進んだ。 このように、多くの予期しなかった新しい現象の発見とその理解において大いに研究が進展しているが、当初の大きな目標であったバリウムイオンの表面への捕獲は未だに実現できない状況が続いている。この状況は、まったく予想外の展開であるが、研究期間を延長して、本研究計画中最後の試行を加える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
バリウムイオンを液体ヘリウム表面下に捕獲してレーザー分光を行う方法を探求しているが、バリウムイオンの生成と捕獲は、当初の予想よりも極めて困難であることが明らかになった。この原因を究明して困難を克服するための系統的な実験を行った結果、興味深い電気流体力学的現象が多数あることが分かった。これらの現象について、高速度カメラを用いた録画とその画像解析により、他の流体では得ることのできない新しい知見を得ることができた。さらに現有のレーザーシステムを援用して、ジスプロシウム原子の超流動ヘリウム中レーザー分光を行い、超流動ヘリウム中の素励起と原子の相互作用に関する有用な情報が得られることを見出した。この現象の詳細な測定から素励起の生成過程に関する新しい知見が得られることが期待される。 ヘリウム表面上の少数電子制御の試みを、台湾交通大学の連携実験室において進めているが、昨年度に発見した、ウィグナー結晶のスティックースリップ現象のさらに詳細な測定を行っている。この現象はウィグナー結晶と表面張力波系の強結合自縄自縛状態からの解放と自縛状態への凝縮の動的過程を研究する機会を提供する。この素子を用いたさらなる少数電子系の研究から、単一電子の量子状態操作へと研究の段階を進めることができる。これによって、今後ヘリウム液面電子を量子ビットとする量子情報処理を目指した研究へと発展させる。 ヘリウム表面電子のマイクロ波励起と磁気輸送現象については、自発的発振現象の詳細と機構解明が、今後とも引き続き課題である。不均一が電子密度領域の形成を強く示唆する結果が得られており、さらに時間空間分解能を改善した測定手法の確立が喫緊の課題である。 今年度が最終年度であったが、延長が認められたため、バリウムイオンの自由表面捕獲に関する最後の試行を加える予定である。
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