本研究は、国際的に高く評価されている2次元電子系やイオン系を用いたヘリウム表面に特有な量子現象の研究によって、これまでに得られた知見の中で特に重要なものについて、集中的に研究を深化させることにより、これまでの研究を集大成することを目的とする。具体的には以下の項目について重点的に研究を行う。 1 超流動ヘリウム3自由表面に存在することが期待されるマヨラナ表面状態を検出するための実験手法を確立する。バリウムイオンの液体ヘリウム中レーザー分光の手法を用いて、光ポンピングによるスピン偏極とその緩和時間測定への応用を自由表面下において実現する。 2 ヘリウム表面上2次元電子系で我々が発見した、表面準位間のマイクロ波励起に伴う磁気伝導度消失現象の機構解明と、ヘリウム表面上の単電子輸送を組み合わせる。これによって、表面状態の量子ダイナミクスを研究すると同時に、そこで得られた知見を量子ビット作成へと応用する。 今年度は、バリウムイオンの捕獲について、光乖離の方法などさらに試行を重ねたが、期待する結果が得られるまでには至らなかった。他の原素では液体ヘリウム中のイオンが確認されるので、バリウムに特有な困難な要因があるものと考えられる。一方、ジスプロシウム原子の励起状態のレーザー分光を用いて、原子と超流動ヘリウム中の素励起との相互作用について解析を進め、論文として発表することができた。ヘリウムチャネル上の擬1次元ウィグナー結晶ので昨年度見出したスティックースリップ現象に関して、表面張力波系とウィグナー結晶の強結合自縛状態への凝縮と、自縛状態からの解放に関する動的過程を理解するための考察を重ねた。その結果、これまでの研究では実現されていない、強電場が作用する超ホットエレクトロン状態が実現している可能性が高いことが分かった。 超流動ヘリウム3のマヨラナ表面状態について、新しい理論計算が行われ、我々の実験結果、即ち、深さ依存性を持たない余剰散乱が、マヨラナ表面状態の特徴であることが明らかにされた。 今年度は、本研究計画の最終年度として、研究評価を兼ねた国際ワークショップを開催し、今後の当該分野の発展方向について、示唆の多い議論を行うことができ、参加者から好評を博した。
|