研究課題
反水素ビーム生成法の高度化 : 反陽子捕捉トラップから二重カスプトラップへの反陽子輸送法を大幅に改善し、20eVというこれまでに無い低エネルギーでの反陽子輸送を実現した。混合初期の200msといったごく短時間のうちに2kHzという高いレートで反水素を合成することに成功した。これは少なくとも輸送された反陽子の一部は温度が非常に低く、混合と同時に反水素生成が始まったことを示しており、大きな成果だと考えている。この20eV引き出しは、反陽子捕捉トラップから二重カスプトラップへの断熱的輸送がある程度実現できたことによるものである。これは、反陽子トラップ中での反陽子プラズマを軸方向に10cm近くまで引き延ばすことで、引き出しパルス印加に伴うプラズマの加熱を極力押えることで実現された。半円筒状の3次元ドラッカーが本格的に稼働し、多重電極トラップ電極内面で消滅する反水素など、消滅位置から反水素同定が高い信頼性を持ってできるようになった。BGOシンチレータと二重のホドスコープからなる反水素ビーム検出器が本格的に稼働し、反陽子消滅に伴うパイオンの多重度から宇宙線の寄与を1/200程度まで下げることに成功した。ささに、ホドスコープに用いているプラスチックシンチレーターの集光効率を上げることで、時間分解能を大幅に向上させることに成功した。これによりさらに宇宙線の識別能率が上がると考えている。単一反陽子の捕捉制御と超高精度測定 : 昨年度進めた反陽子と陽子の質量電荷比の超高精度測定はデータ解析の結果、これまでにない精度(一千億分の一程度)で陽子と反陽子の質量電荷比が一致していることを示した。さらに、大きな目的である反陽子の磁気モーメント高精度測定に向けた準備を進め、年度末に、ついにその測定に成功した。現在その解析と出版準備を急いでいる。以上の測定を進めるため、系を極高真空に維持しており、実際、2015年11月に捕捉した反陽子は現段階でなお維持されている。これは、反陽子の寿命測定を構成しており、やはりこれまでの世界記録を大幅に更新して、5年以上であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
1. 昨年度の推進方法に記した項目のうち、冷反水素合成に必須の”反陽子の断熱輸送法の確立”にほぼ目処がついたこと、大量の陽電子プラズマ操作に成功したこと、反陽子陽電子の混合初期における高レート反水素合成(2kHz)に成功したこと。2. 反水素ビーム検出器の高度化、宇宙線の識別能率を大幅に向上したこと。3. 単一反陽子と陽子の質量電荷比をこれまでにない精度で決定し、両者の差が1000億分の1以下であることを明らかにし、出版したこと。また、大きな反響を得たこと。4. 反陽子と陽子の質量電荷比の恒星時変化が一兆分の720以下であることを明かにしたこと。5. バリオン反物質による弱い等価原理を一千万分の87の精度で確認したこと。6. 本研究課題の大きな目的である反陽子の磁気モーメント測定に後一歩まで近づいたこと。7. 反陽子の寿命が5年以上であるという新しい限界を実験的に明らかにしたこと。8. これまで蓄積荷電粒子の低温化を困難にしていたノイズ源の特定に一歩近づいたこと。
1. 百万個程度の低エネルギー反陽子の断熱輸送法を確立し、反水素数を飛躍的に向上する。2. ノイズ源の特定を進め、陽電子と反陽子のさらなる低温下を実現する。3. 反水素ビーム検出器のさらなる高度化を進め、宇宙線起源のノイズを大幅に減らす。4. 反水素ビームのマイクロ波分光を進める。5. 反陽子の磁気モーメントをこれまでにない精度で決定する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 22件、 招待講演 8件) 備考 (3件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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