研究課題
冷反水素生成 : 昨年度開発に成功した反陽子ビームの断熱輸送法をさらに高度化し、反陽子ビームの輸送効率を昨年度より30%向上させた。このビームを用い、より低温の反水素を合成するため、二重カスプトおける反陽子と陽電子の準静的混合法の開発を進めた。準静的混合には二つの異なる手法が考えられ、その得失を実験的に確認した。その結果、(1)30秒という巨視的時間にわたってゆっくりと混合することに成功した。(2)この準静的な反陽子と陽電子の混合では、混合後も30秒以上にわたって反水素合成に関わる消滅信号が観測された。一分以上にわたる持続的な反水素生成はこれまでに例がなく、大きな成果となっている。(3)反水素ビーム検出器の反水素同定性能をさらに向上させ、またマシーンラーニングの手法を外部の専門家も巻き込んで開発した。(4)ビームライン下流に強力な電場イオン化装置を設置し、ビームとして引き出された反水素の主量子数分布を測定することに成功した。(5)タイムピクセル検出器を導入し、低エネルギー反陽子の消滅パターン(放出2次粒子数分布)を測定した。keV以下での測定は初めてで、今後の反陽子の同定に重要な情報を与える。単一反陽子による超高精度測定 : ペニングトラップへの単一反陽子の捕捉、操作技術の高度化に成功した。その成果をもとに、(1)反陽子の磁気モーメントを昨年に出した世界記録をさらに350倍上回る1.5ppbを達成した。これを他グループの達成精度と比較すると2000倍以上の高精度化となっている。この反陽子の磁気モーメントの精度は陽子の磁気モーメントの精度を上回っている。自然界に存在しない反陽子の物理的性質を、自然界に最も豊富に存在する陽子の物理的性質より高い精度で決定できたことは、画期的であると自負している。(2)次いで、陽子の磁気モーメントの高精度測定を進め、やはり我々が以前に得た最高精度をさらに11倍向上させた0.3ppbを得た。これにより、陽子の磁気モーメント精度が、再び反陽子の精度を上回った。(3)上記の(1)、及び、(2)の成果から、陽子と反陽子の磁気モーメントに関わるCPT対称性が、これまでに知られていた精度を3000倍上回る精度で保存していることを明らかにした。(4)反陽子を405日ペニングトラップ中に維持し続けることに成功し、直接観測による反陽子の寿命限界をこれまでより7倍延ばした。(5)以上の成果は、単一反陽子のスピン反転を観測できる検出器の開発成功によるところが大きい。(6)反陽子の測定精度をさらにあげるため、サイクロトロン検出器の改良を進め、サイクロトロン周波数を高精度且つ短時間に測定可能とした。現在300pTの磁場変動をreal-timeで検出可能となっており、今後のさらなる高精度化に重要な役割を果すと考えている。(7)レーザー冷却されたBeイオンによる反陽子の共同冷却法開発を進めており、第一段階は既に成功した。この実現により、さらに大幅な精度向上が達成できると考えている。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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