研究課題/領域番号 |
24000009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 誠 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90209065)
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研究期間 (年度) |
2012-05-29 – 2017-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 単結晶構造解析 / ホスト-ゲスト化学 |
研究実績の概要 |
溶液ケージと結晶ケージを統合した化学の展開において、溶液系における新たな有機金属反応の開発に成功した。水溶液中でケージ分子ホストの中にPd触媒を包接し残余空間に対し、さらに末端アルキンを導入したところ、通常塩基性条件でしか起こらないC(sp)-Hの活性化が起こり、アルキニルパラジウム錯体が生成することが分かった。 また、このケージホストが作る疎水性空間の新たな性質を突き止めることにも成功した。この疎水性空間には高度にフッ素化された有機化合物が選択的に認識・包接されることが分かった。また、ケージホストの空間内に取り込まれたフッ素化合物間には、親フッ素性の相互作用が働いていることが単結晶X線構造解析により分かった。 結晶空間内の化学においては、アリールパラジウム錯体がNBSにより臭化アリールを生成する過程を単結晶X線構造解析により追跡することに成功した。特に、還元的脱離の過程においては、Pd(IV)に対応するようなアピカル位に配位子を持つ化学種が観測されず、この反応がPd(II)/Pd(0)の機構によっても説明されうる事が示唆される結果を得た。 このように、有機金属の反応を溶液及び単結晶中でそれぞれの特徴を活かしながら扱う事が可能になってきたことから、共通の空間を通した溶液化学の結晶相への転写という本来の研究目的が達成可能な手応えを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、これまでの研究で見つかっているパラジウムケージの中での反応を中心に単結晶ケージへの転写と結晶構造解析による直接観測を予定していた。この計画に関しては順調に遂行できている。さらに、この研究の中で、溶液ケージを使って新たな有機金属反応の糸口が掴めたのは非常に大きいと考えている。また、結晶ホストを用いた有機パラジウム反応の直接観測ができたことで、今後のさらなる複雑な反応系への応用が十分に期待できるようになった。これらを鑑みれば、本研究は当初の予想以上の進展を見せていると十分に言える。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度に大きな進展のあった溶液ケージの中での特異な有機金属触媒反応の開拓を拡張して研究を進めていきたい。特に、アルケン、芳香族、アルカンなどのC-H活性化反応をターゲットとして溶液ケージ内での新たな反応開発に繋げたい。制限されたホスト空間内で、基質と触媒が近接した状態を作り出すことで、通常の溶液化学では実現できないような特異な選択性を有するC-H活性化を行う。そして、その触媒系をネットワーク化単結晶ケージの中に導入することで、結晶中でも同様な反応を実現する。また、H25年度に引き続き単結晶ケージを結晶フラスコとして用い、内部で起こる有機金属触媒反応を経時変化で追跡する技術の向上も目指したい。温度による反応のコントロールや結晶浸漬時間による結晶内での基質濃度の調整まで含めた詳細で精密な反応設計を可能にすべく技術的にもさらに高度な取り組みを行いたい。この単結晶構造解析による反応追跡で得られる知見を溶液化学へと逆転写する取り組みにも着手したい。結晶空間の化学による結果をフィードバックさせる形で、溶液ケージ内での反応のバリエーションを増やしたり精密設計に繋げたりしたい。より具体的には、Diels-Alder反応の位置選択性やエントロピー支配による活性化エネルギーの低下を詳細な結晶構造データから溶液化学での基質設計に繋げるという研究から着手してみたいと考えている。
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