研究課題/領域番号 |
24000009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 誠 東京大学, 工学系研究科, 教授 (90209065)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2016
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キーワード | 自己組織化 / 単結晶構造解析 / ホストーゲスト化学 |
研究実績の概要 |
溶液ケージと結晶ケージにおける化学を、空間を介して統合する試みにより研究を進めている。H27年度の研究では、まず、通常は固相化学においてのみ議論されてきたハロゲン結合を、溶液ケージを活用して溶液状態で誘起できることを見出した。これにより、ハロゲン結合は溶液系における分子認識においても利用できることを新たに実証できた。また、溶液ケージへの色素の包接を関与させることにより、包接現象を肉眼で容易に確認できる「包接クロミズム」現象を見出した。さらに、重要な生体関連分子であるステロイド類が溶液ケージへ包接されることを見出し、ケージ内に密に包接される場合には特異な光酸化反応を引き起こすことが可能であることを見出した。溶液化学を展開するためのツールとして、既存の溶液ケージを拡張し、約2倍の有効内部体積をもつ溶液カプセルの開発にも新たに成功した。このように、溶液化学と固相化学を、ナノ空間を通じて結びつけるという本研究の目的のもと、昨年度はこれまでに見られなかった新しい溶液現象の開拓を達成した。このように、今回新たに発見した現象を固相化学へもさらに展開することにより、本研究を大きく発展させることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、パラジウムケージを利用した溶液化学を、固相の結晶空間にうまく展開していくことを順調に進めてきた。昨年度はその目的に限らず、溶液化学においても、ハロゲン結合が利用できることや色素を利用したクロミズム現象、さらにステロイド類の特異反応など、新しい現象・反応の開拓に大きく成功してきた。既存の溶液ケージの拡張にも成功しており、この新しいツールを利用することによっても、さらに空間の化学を大きく発展させることが大きく期待できる。したがって、総合的に見て当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度に開発した、溶液カプセルを利用した溶液化学をさらに開拓する。既存の溶液ケージの約2倍の有効内部体積を利用することで、一度に包接できる分子数の増加や立体的にかさ高い分子の包接が期待できる。高度に孤立したナノ空間特有のカプセル効果も見出したいと考えている。また、固相化学の幅を大きく広げるために、新しい固相材料の開拓を進める。生体分子を配位子設計に組み込んだ結晶材料の構築を新たに進めることで、高極性溶媒に適した結晶材料の創出とその機能化を行う。具体的には、ペプチドのβシートやαヘリックス構造やオリゴ糖などを使った結晶材料空間の構築を検討する。また、これまで溶液化学としてのみ注目してきた溶液ケージを共結晶化剤として用いることにより、固相化学への新たな展開も検討する。具体的には、H27年度に見出したステロイド類の包接現象を踏まえて、溶液ケージを共結晶化剤として利用し、固相化学へもアプローチする。ステロイド類のみならず、多様な生体関連分子への適用も検討したい。さらに、固相のネットワーク錯体の空間における有機化合物の光反応を検討する。様々な反応生成物を精密構造決定することにより、未知の光反応生成物の探索も行う予定である。以上の方策に従って、本研究を大きく推進したいと考えている。
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